約束

□第二話〜罠〜
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桃城「あ、手塚先輩!」

噂をすれば何とやら、手塚が病院から戻ってきました。
背筋をまっすぐに伸ばして躊躇なくコートに入ってくる姿は、彼女の存在感を一層際立たせました。

手塚「…桃城。もう練習は終わったのか?」

桃城に呼びかけられ、振り向いた手塚が後輩の姿を捉えました。

桃城「今休憩なんっスよ。それより手塚先輩、もう来て大丈夫だったんスか?」

大石からもう2、3日は休むかも知れないと聞いていた桃城は、手塚がまた無理をして来たのではないかという不安が過りました。

手塚「心配はいらない。医師からは順調だと言われている。今後は定期検査だけで様子を見るそうだ」

決して治るとは言いませんでしたが、それでも事あるごとに病院のお世話になっていた手塚とその経過を見守ってきた部員達には、充分喜ばしい事でした。

桃城「で、これからそれを?」
手塚「ああ。とは言え病院帰りだからな。検査結果を話せばすぐに追い返されるかも知れない」
桃城「心配症っスからねぇ、大石部長…」
手塚「ところで、お前の隣にいる奴は新しい後輩か?」
桃城「ああ、こいつが越前っス。ほら、例の…」
手塚「そうか」
リョーマ「チィース」
手塚「マネージャーの手塚だ」
リョーマ「桃先輩の言ってた手塚先輩って、マネージャーだったんスね」

それも女子とあれば、むさ苦しい男所帯の男子テニス部にはおいしい条件です。
先程の感覚などなかったように、リョーマはいつ手塚を頂こうかと思案しました。

手塚「俺はもう行くが、後の事は頼むぞ。気を緩めるようであれば、グラウンド10周だ」
桃城「ウィース!」

手塚は桃城の返事に頷いて大石の元へ向かいました。

桃城「おい越前、見惚れてんじゃねぇぞ?」

手塚の後ろ姿をずっと見送っていたリョーマは、桃城に肘でつつかれてようやく我に返りました。

桃城「…ま、気持ちは分かるけどな。けど、いくら越前でも、手塚先輩は堕とせねぇだろうぜ?ありゃ別格だ。今まで誰の告白にも乗らなかったんだからな」

リョーマは桃城の話を聞いて俄然やる気になりました。
誰も堕とせなかった女性をこの手で組み敷ければ、今まで多くの女性を食い物にしてきた男にとってこれ程の優越感はないでしょう。
おまけに手塚は、そういったプラス要素を差し引いても、とてもリョーマ好みの顔と体系をしていました。
今まで少々顔やスタイルが整った女子にも身体以外求めなかったのは、そういう理由からです。
特に最近は簡単に食い物にできる女子がほとんどで、ちょっとやそっとでは靡かないような、手応えのある獲物にリョーマは飢えていたのです。
リョーマは密かに人の悪い笑みを浮かべました。

大石「集合!」

大石は手塚を家に帰した後、部員全員を集めて手塚のマネージャー復帰の報告をすませ、次の日手塚の簡単な紹介を行う事までを部員達に知らせてから解散しました。
その後リョーマは、桃城の誘いを適当に断り、手塚の情報収集に向かいました。
リョーマはすでに桃城が手塚に好意を持っている事を知っていたからです。

跡部「アーン?越前、お前帰ってきてたのか?」
リョーマ「まあね。それより、聞きたい事があるんだけど」
跡部「フン、青学に入ったんなら来ると思ってたぜ。手塚の事だろ?」

女遊びが激しいと評判の跡部は、リョーマがアメリカにいた頃からの悪友です。
互いに女をとっかえひっかえしていましたが、2人の大きな違いは女性と付き合った事があるかないかです。
跡部は気まぐれに特定の相手を作ったり作らなかったりとしていますが、リョーマは彼女と呼べる存在を今まで作った事はありません。
女性の誘いを断らないリョーマに対して、跡部の場合は相手を選ぶだけでなく、気分で動いているのです。
つまり、抱くか抱かないかはその時の気分次第。その為ある程度近づいてくる女性の人数を調整する為に、女よけとして傍に彼女という存在をおくのでした。
その代わりリョーマは、女であれば抱くけれどその先はないという事です。

リョーマ「分かってんじゃん。て事は、アンタも狙ってたんだ?」
跡部「いや、まだ大会で何度か見かけた程度だ」
リョーマ「別格って聞いたけど、アンタが近づけないんなら本当みたいだね」
跡部「今まで手塚狙いで近づいていった奴は散々見てきたが…全員痛い目みたみてぇだぜ?」
リョーマ「でも、興味あんでしょ?」
跡部「まあな。……で、何を知りてぇんだよ?実際に手塚に会ったってんなら、もう大体は把握できてんじゃねぇか?」
リョーマ「アンタがあの人を抱いたか抱いてないか知りたかっただけ」

手塚が処女である事を知るとリョーマは満足そうに笑いました。

リョーマ「まぁ、有名マンモス校の最後のメインディッシュとして取っとくには上出来かな。でも、そこまで時間はかからないと思うよ?」
跡部「言うと思ったぜ。…1ヵ月ってとこか?」

用は済んだとばかりに出ていこうとするリョーマの背に向かって問う跡部に、リョーマは不敵な笑みを浮かべて振り向きました。

リョーマ「…まだまだだね。20日で充分だよ」

リョーマが氷帝の跡部とそんなやり取りをしているのと同じ時間、そうとは知らない手塚は携帯で今日の分の練習メニューを大石から聞いていました。

手塚「…では、明日の練習はそのようにしてくれ」
大石「ああ、分かった。予定の記入は俺がやっておくから、お前も早く寝るんだぞ?」

大石の心配性な性格は、その多くが手塚に向けられます。
手塚が左手で箸より重い物を持とうとすると、大石が黙っていないのはもはやお約束です。
そんな大石に苦笑して頷くと、無茶さえしなければしばらくは定期検査だけですむという事もあり、いつもなら一言二言返すところを今日は素直に言う通りにする事にしました。

次の日、手塚は朝練に間に合うようにいつもより早く家を出ました。
もちろん、いつも首からかけている指輪を忘れずに…。

Fin.
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