約束

□第一話〜出会い〜
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入学式前日の朝、手塚はいつも通り目覚めました。
毎朝目覚ましよりも先に目覚めている手塚は、今日も忘れずに目覚まし機能を止めて支度に取りかかります。
いつものように指輪を鎖で首にかけるのも、平日休日を問わず毎日の習慣です。
家族に二つ目の挨拶をし終えれば、余裕を持って学校に向かいます。

大石「おはよう、手塚」
手塚「ああ、おはよう」
大石「入学式の仕事もあるのに、手塚に手伝わせちゃってごめんな。英二達が来るまでの間で構わないから」
手塚「気にするな。マネージャーとして、テニス部員の援助をするのは当然の事だからな」

手塚と一緒に青春小学校を卒業した大石は、手塚の幼馴染です。
手塚が腕を壊してテニスができなくなった時、大石は自分の練習時間を惜しまず彼女を支えてきました。
そんな大石に救われた手塚は、大石の所属する男子テニス部のマネージャーになる事を決意しました。
その事情を知る数少ない顧問の竜崎が折れる程に、手塚の決心は固いものでした。
部員達の役に立つ為の努力はもちろん、手塚はテニス部の全国制覇を誰よりも望みました。
もともとは補助的な役割を担う事が多かった大石がテニス部の部長になったのは、手塚あってこそだと言えるでしょう。
手塚のテニス人生を諦めざる負えなくなった時はどうなる事かと思いましたが、今ではテニス部にとって手塚はなくてはならないものとなりました。

菊丸「遅くなってごめーん。テニス部の掃除あんのすっかり忘れてた」
河村「もう大体は終わっちゃったから、後はゴミを決められた場所に捨てに行くだけだよ」
菊丸「ありがとー、助かったにゃ」
大石「礼なら手塚に言えよ。手塚の片づけた場所、本当なら英二がやるはずだったんだぞ?」
菊丸「うっそ、ごめん手塚。今度帰りに何か奢るから」
手塚「気にするな。みんなが気を遣ってくれたから、重労働にならずにすんだ」
乾「後は俺達に任せて、手塚は職員室に行って竜崎先生に報告を頼む。部室の掃除が終わった今、残りは力仕事になるからね」
桃城「そうっスね。手塚先輩に力仕事は危ねぇなあ、危ねぇよ」
手塚「すまない。余計な心配までかけてしまって…」
大石「手塚のせいじゃないさ」
河村「うん。回復したとは言っても、また腕を痛めたら大変だからね。用心に越した事はないよ」
海堂「てめぇが余計な事言うからだろうが」
桃城「何だと?やんのかマムシ!」
大石「よさないか、2人共」

必要以上に女の子扱いされる事に慣れていない手塚ですが、今では部員の気遣いを素直に受け入れる事ができるようになりました。
そうして賑やかな清掃活動を終えたレギュラー陣は、軽くコートで汗を流してから家に帰りました。
1人の問題児が、ここ青春学園に近づいているとも知らずに…。

奈々子「リョーマさん、いよいよ明日ですね。中学校は楽しみですか?」
リョーマ「別に」
奈々子「中学は部活もありますから、色んな方と出会えると思いますよ」
リョーマ「ふーん……色んな人と、ね」

ここ、リョーマの部屋では、先程まで生々しい男女の交わりが行われていました。
誘ったのは奈々子、それに応じたのがリョーマですが、もともとそうなるように仕向けたのはリョーマの方でした。
彼は10歳の頃から女遊びが激しく、小学校を卒業するまでにはすでに数人の女子と交わっており早熟していました。
女の体の味を占めたリョーマは、休みの日には決まっていとこである奈々子とも身体を重ねています。
女性と付き合っても大半が抱いたら終わりという関係を続けていた為、リョーマに抱かれた回数が一番多いのは、考えるまでもなく一緒に暮らしている奈々子という事になります。
そこに愛がないと分かっていても、奈々子はリョーマとの関係を続けていました。

奈々子「では、そろそろおじ様が帰ってくる時間になりますので、私は失礼しますね」
リョーマ「ん」

今日こそ引き止めてもらえるのではという奈々子の淡い期待を裏切って、リョーマは本格的に寝る体制に入りました。
幾度体を重ねても、リョーマのこの冷めた態度は変わりません。
それがリョーマなのかと問われるなら、奈々子は一概に頷けませんでした。
なぜなら、リョーマは一時期、今の姿からは想像できないくらいに奈々子に親切でした。
その時はリョーマが懐いてくれているものだと喜んでいましたが、リョーマが狙っていたのは奈々子の身体だけでした。
そうとは知らずまんまとリョーマの術中にはまり、奈々子はすっかりリョーマの性欲処理の一つにされてしまいました。
…そう。リョーマは最初こそ優しいのですが、一度身体を知れば手の平を返して相手に興味をなくします。
それでも基本的にリョーマは女性に優しく、抱いて欲しいと望む女子達は後を絶ちません。
そうと頼めばリョーマはそれに応じますが、身体のみを目的とした愛のない交わりは、来る者拒まずと言うにはあまりに寂しいものでした。

朝、奈々子に見送られ登校したリョーマは、入学式が行われている間もずっと校庭の木の陰で寝ていました。
それどころか、たまたま通りかかった為に注意しにリョーマの元へ来た女教師を口説いて、リョーマは入学初日から楽しんでいたのでした。
女性の身体に不自由した事のないリョーマには、自分で処理する必要はない為にこれ幸いと近づいて来る者はもちろん、自分からも手当たり次第に女子生徒との関係を続けていました。

桃城「おい越前。お前随分派手な事やってっけど、大会近いんだから程々にしとけよ?」

入部してほとんどすぐにレギュラーとなったリョーマは、部内で一番親しい桃城と休憩時間を過ごしていました。

リョーマ「ウィース」
桃城「あんまり酷いと後で手塚先輩が怖いぜ?」
リョーマ「…手塚先輩?」

男子テニス部のマネージャーを務めている手塚は、左腕の最終的な精密検査の為に入学式後のここ数日は部活を休んでいました。
リョーマが入学式をサボった事を知っている桃城は、うっかりしていたとリョーマの反応に納得しました。

桃城「おっと、お前はまだ会ったが事ないんだったな。まぁ手塚先輩に会えば、お前のその性格もちったあまじめになるかもな?」
リョーマ「その人、そんなに強いの?」

何事も冷めやすいリョーマが興味があるのは、女性の身体とテニスの強い相手だけでした。

桃城「そいつは、自分の目で確かめるんだな」

どんな事でも完璧にこなす手塚は、テニスに関しても青学一の実力者である事を言っても良かったのですが、青春学園入学とほぼ同時にラケットをおいた手塚の真の実力を見た者は、テニス部のレギュラー陣でさえごく僅かでした。
そんな彼女のテニスの腕は、口では説明できないというのは口実で、憧れの先輩に女癖の悪いこの後輩を近づけたくないという桃城の本音が隠れていました。
もっとも、竜崎のマネージャーをとらないという方針を知っているリョーマが、手塚がマネージャーであると思うはずもなく、当然女である事も気づくはずはありません。
せいぜい、部活をサボるくらい腕に自信のある部員という認識を与える程度でした。

すでに2人のレギュラーに勝っている為に大した期待もせずに桃城の話を聞いていると、リョーマの視界の端がある人物を捉えました。

切れ長の目、白く透き通るような肌、さらさらとなびく髪…。

その瞬間、まるで体が宙に浮いたかのようにリョーマの中での思考が停止しました。

Fin.
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