頂き物
□『無自覚テロリスト』 硝燦サマより。
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清らかな音色で小川の水は流れ、姿の見えぬ小鳥たちのさえずりが朝を告げている。
冷たいよ、と私が心配するのも聞かずに。長い布を水につからせながら入ってしまった彼の手には色鮮やかな彼岸花。
彼の手にあるのだけではない。
上流の方で咲いていたのであろう彼岸花がゆらゆらと流れに乗っていて、普段は無色に近い川も色鮮やかな赤に染まっていた。
「冷たいから、上がっておいで。それ以上いたら体にも悪いだろうから」
私が促しても、彼は一向に上がろうとしない。
よほどこの景色が気に入ったらしい。
こんな時の白銀には何を言っても無駄だという事はよく理解しているから、私はやれやれと肩をすくめ、砂利を踏みしめた。
ただでさえ反属性の世界に居るのだから、という不安な気持ちと。喜んでくれているのだから、といううれしい気持ちが混ざり合って。
どうしたら良いのだろう、と幸せな悩みに悩むのだ。
秋の終りのこの季節。冬ほどではないが、それなりの寒さは感じるもので。川の近くまで来ると、水の冷たさが風に乗って私を包み込む。
小さく身震いしてしまうほどだ。
川に入っている白銀は多分、というより絶対冷たくなっているはずだから、帰ったらお風呂に入らせないと。
あたたかい紅茶と白銀が大好きなお菓子も用意しよう。
一人、自分が立てた計画に頬を緩ませる。
傍から見たらきっと滑稽な光景なんだろうが、幸せなのだから仕方がない。
そう、まずは白銀を川から上げさせないと。
幸せからくる溜息を聞こえないようにそっと。(繊細な彼は溜息一つで傷ついてしまうから)
「上流の方に彼岸花が多く咲くところがあるんだ。この彼岸花もきっとそこから流れてきたのだろう」
「これが、たくさん・・・?」
ようやく私を見てくれた白銀に笑って頷く。
「ああ。今は時期を少し過ぎてしまったから、来年一緒に見に行こう。とてもきれいだよ」
「・・・楽しみにしといてやるよ」
ふわりと春の様に暖かくなって。
白銀が微笑んだのだと気付いた瞬間、私の顔は急速に体温を上げていく。
不意打ちの攻撃をした張本人は川に返した彼岸花に小さく手を振っているし・・・。
ああ、本当に愛おしくて、かわいくて・・・。
きっと面を上げて真っ赤になっている私を見た白銀は「どうかしたのか?」と首をかしげるのだろう。
END