頂き物

□『snowflake』 水無月うおサマより。
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「ご覧なさい。あれがシンの最期です」

アキにそう告げる白銀の声は まるで無感情で淡々としていた。
本当はシンだけじゃないよ。レイだっておんなじ。
光とか影とか そんな属性なんて関係なく。
最期を迎えたら淡く空間に溶け込む光になって 消えて無くなってしまう。
(まるで 雪みたいに)
それは凄く悲しいけれど 綺麗な光景なんだ。
俺達の大好きだった王様も そんな風に綺麗に世界の一部になってしまった。

そして俺達は絶望の奔流の中へ取り残されてしまう。
死の悼みは例外などなく あらゆるものに必ず訪れるのだと俺はその時初めて理解したのだった。







この絶望で満ち溢れた汚濁しきった世界でも どうか貴方達だけは幸せでありますように。
(愛しい貴方が泣かないようにと 俺はそのことだけを願っている)

























初秋。センチメンタルの季節。
空は抜けるように高く澄んでいるのに そんなのとは裏腹に彼の心は一向に晴れやしない。
(まるで一足先に冷たい冬が彼の心を蝕んでしまっているように)
暖かな午後のベッドの中であっても。
そして慰め合うためだけのセックスをしても意味がなくって。
彼の心情は凍ってしまったまま溜息ばかりを部屋の中へ落としていく。
俺は でも。彼の心の蟠りを どうにかしてあげたくってもどうもできない。
彼を幸せで満たしてあげたいのに そうできないでいる。
もどかしいジレンマ。彼の全てが俺のモノではないということ。

何度 耳元で愛を囁いても。
何度 この腕で抱きしめても。
いつもいつも。貴方は俺じゃなくって もう存在しない幻影を追い求めている。
(俺はね それが凄く悲しいんだよ?)
遥か昔に居なくなってしまった綺麗な人。
彼は優しさと強さと光で満ち溢れている まるで太陽のような人だった。









昔の彼は いつも悲しい瞳をしていた。
まるで自分が絶望や不幸の全てを担っているように。
俺は その瞳を見てられなくって いつも俯いて彼の前を歩いた。
(大好きな人の悲しい顔を 見たくなんてなくって)
でも。俺の大切な光の王様は躊躇うことなく彼の手を取ったのだ。
それは もう惚れ惚れするくらいの鮮やかさでもって。

(そして彼らは蕩けるような恋をした)

その頃の2人は見ている方も幸せになるくらいで。
それは優しさで 心がいっぱいになるくらいの一生涯に一度の恋。
俺は そんな彼らを見て“恋だなぁ…愛だなぁ…”って感じたし。
幸せってこういうコトなんだと思ってたんだよ。
彼の素直じゃない でもとっても可愛い口端でだけの微笑みはアノ人だけのものだった。
でも俺は ちっともそんなことは構わなかった。
寧ろ それでいいとも思っていたんだけれど ね。

だけれど ある日突然 夢がパチンと壊れてしまうように幸福は失われてしまったのだ。
それは世界の秩序の崩壊。
そして綺麗な彼の心の均衡をも崩して去って逝ってしまった。
黒い光の名残を纏って。


















「…お前も俺も…死んだら何も残らない。アイツみたいに。
 ただ 塵になって もうどこにも解からなくなって消えてしまうんだ」

俺に背中を向けたまんまベッドの端っこに寝ていた彼が呟く。
それは まるで独り言のように囁くほど小さな声だったのに でも張り裂けるほどに悲痛な声でもあった。

「だから 俺たちが死んだのなんて誰にも関係ない。どうでもいいこと」

どうしてそんな悲しいことを辛そうに告げるのかな。
嘘つき。どうでもいいことだなんて思っちゃいないくせに。
(アノ人の死を引き摺ってるのは紛れもなくアンタでしょうに)
そんで ホントは忘れられたくなんて無いくせに。
感情はね 停滞してたら死んでしまうんだよ?だから前進しなくっちゃならない。
それが どんなに死にたくなるくらい悲愴なことでも。














「…それでも俺は 白銀さんのコト大切にしたいなぁ…って 思うよ」












“もしアンタが死んで光の破片になっちゃっても その欠片1つ1つ 俺がもう一度 掻き集めるから”
「だからさ 安心してよ」






彼は眠ったフリが上手で。
俺も そんなコト気付かないフリをするのが上手で。
ただのお互いの独り言は 互いに届いても一方通行のまま。
午後の穏やかな光を受けて 部屋の埃がキラキラと輝いている。
(まるで穏やかに降る雪の欠片 そして光の破片)


この綺麗な光が部屋を満たすくらい降り積もったら もしかしたら幸せになれるのかなぁ…なんて。
俺はそんなくだらない(だけれど懇願でもある)夢を思い描く。


















snowflake

幸福だけが降り注ぎますように。
(貴方の この先の未来には もう幸福だけしかないことを願ってる)














 
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