◎種TEXT◎
□僕は貴方を…
2ページ/3ページ
最近、僕は可笑しい。
ギルを見る度に躯が火照るように熱い。
ギルを見る度に飢えにも似た焦燥感に駆られる。
ギルを見る度に動機が激しくなって息苦しささえ感じてしまう…。
僕は病気にでもなってしまったのだろうか…。
僕は全く訳が解らず、随分長い時間自分の躯と気持ちに翻弄される毎日に苛まれる事になった。
『レイ、そう云えば又薬が切れる頃だろう?何時になっても構わないから今日、私の部屋へ来なさい。もし今日を逃すとちょっと次が何時になるか判らないのでね。待っているよ』
そう云われて、僕はギルに二人だけで逢える喜びと、翻弄される自分の感情と躯の異常に一抹の不安がよぎる。
『はい、解りましたギル』
そう返事はしたものの、少しだけ憂鬱な気持ちになる自分の感情が、何だかギルへの罪悪感の様に重くのし掛かって、何だか気分が悪かった。
それでも、ギルに逢える嬉しさと逢いたいと云う気持ちには勝てなくて、散々悩んだ挙げ句、仕事と訓練が終わった後、矢張り足を向けた。
コンコンとノックをすると、
『レイかい?開いているよ』
と声が聞こえたので、
『そうです、失礼します』
と云って、部屋の中へ入った。
そして、僕は一瞬固まってしまう。
事も無げにバスルームから出て来たギルは、バスローブ一枚しか纏っていないあられもない状態で頭をわしゃわしゃと拭いていた…。
部屋が少しだけ薄暗かったのも手伝ってか、その時の風呂上がりのギルは必要以上に艶めかしく見えて僕は酷く動揺し、狼狽してしまった。
そんな僕を見てギルは不思議そうに首を傾げていた。
『レイ…?』
『…は、はいギル…』
『どうしたんだい?何か有ったのかい?私で良ければ遠慮無く云ってごらん』
『いえ、…何もないですよギル』
そう云う僕の顔をギルは、ずいっと覗き込んで来る…。
ふわりと風呂上がり特有の良い香りが鼻腔を掠め、濡れた黒髪にまで匂う様な色気を感じてしまう…。
『…ギル』
『何だいレイ?』
『早く髪を拭かないと風邪を引いてしまいますよ…?そうだ、タオル貸して下さい。私が拭いてあげます…良いでしょう?』
誤魔化そうとしてとっさに出た言葉がそれで、何故かタナボタ的なシチュエーションを招いてしまっていた。
『…有難う、レイ』
そう笑顔でタオルを手渡すギルを見て、矢張り僕は罪悪感に駆られるのだった。
『…痛くないですか?』
『ああ、大丈夫だ。良い気分だよレイ』
『………』
『頭を拭いて貰うなんて一体何年振りだろうね?少し、こそばゆいかな』
『あ、すみませんギル…』
『それも気持ちが良いから構わないんだよ、レイ』
『…はいギル…』
『それに、偶には私が君に甘えるのも、…良いだろう?』
そんな事を云い乍ら、普段の威厳がまるで嘘の様に、無垢な子供の如く屈託無く甘えて来るギルに僕は堪らなくなる。
嗚呼、そんな…。
そんな事をそんな顔で云うなんて狡い。
フェイントもいい所ですよギル…。
僕を子供だと思って油断していたら思わぬしっぺ返しが来ますよ?
僕の前でそんなに無防備になるなんて…。
ギルは甘いですよ。
僕は一応男なんです。
…嗚呼…。
…矢張り。
気付きたくなんてなかったのに…。
貴方の所為で気付きたくない事まで気付いてしまったじゃないですか…!
責任は取って貰いますよギル…?
『ギル…』
『……?レイ…?』
いつになく真剣な僕の声音にギルはたじろいだ様子で僕の名を呼び返す。
『ギル…。好きですよ?』
そう云って、僕はギルを背中から抱き竦めると、ギルは一瞬ビクリと肩を震わせ、僕を振り返る。
僕は、少し驚きと怯えの見えるギルが此方を見つめる中で、ギルの濡れた、艶やかで長く綺麗な黒髪を指でゆったりと梳いてみる。
髪が指に絡まって、吸い付く様な感覚が気持ち良くて何度か繰り返す。
『…ギル、貴方が好きです』
『ずっと…、好きだったんです』
そうして、ギルの黒髪を束ねて向こうへ回すと、白い項が露わになる。其処へ僕は躊躇い無く口付けると、首筋を辿って、ギルの唇へもう一つ口付けた。
『ちゃんと一人の男として、ですから』
『何時までも、子供じゃあ居られないんですよ。ギル、私の生き様、これからちゃんと見ていて下さいね』
『必ず頼れる男になります、ギル』
キョトンとしたギルの顔が、一気に朱に染まってゆくのを見て、先ずは第一段階クリアかな?と思う僕だった。
『…レイ。これは、その…、私は犯罪者にはならないだろうね…?』
どうやら、動揺してギルの頭は少しばかり可笑しな回転をしてしまっているらしい…。
そんな事を考え乍ら、僕は次からどう攻めるべきか思案に耽っていた。
FIN.