◎種TEXT◎

□僕は貴方を…
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僕は貴方を…





僕は貴方を信じていた…。

僕は貴方を敬愛していた…。

僕は貴方を崇拝していた…。





僕は貴方に、

何処までも、

ついてゆきたかった…。




















『ギル…!いえ、議長…!』

僕は、反射的にその名を口にすると小走りに駆け出した。

其処は、軍の訓練生が実習や訓練を行うザフト軍の訓練基地である。
そして、其処に見学と激励に来たであろうそのザフトの最高協議会議長であり、豊かな黒髪と優しい瞳を湛えた自分の敬愛する人物を目の端に捉え、逸る気持ちと弾む心で弛んでしまいそうになる顔を努めて抑え乍ら目的の人物に駆け寄る。

『おや、』

視線が合うと、その瞳は柔らかく細まり、その人物の形の良い唇が緩やかに動く。深く、心地良く響く声が、僕の耳を掠める。

その瞬間、僕は我に返り、自分の行動を恥じて立ち止まる。すると黒髪の人物は目を丸くしたが、僕が敬礼すると、にこやかに会釈を返してくれた…。

其れだけで僕の胸は温かな気持ちで満たされる。



…自然と顔が綻んだ。

 

もし、この人に育てられなかったら…。

恐ろしい…。

…厭だ。

絶対に…。

そんな事を考えて身震いする。

…有り得ない。

…馬鹿馬鹿しい。

ラウも少し厳しかったけど、何時もどこか優しかった…。

僕はラウとギルに会えて、本当に嬉しい。

ギルに逢えて、本当に、本当に、嬉しい…。

今も、とっても嬉しいんだ。

でも、最近は僕も大きくなって、ギルも偉くなって仕事で忙しいから、逢える時間は凄く少なくなった。

だから甘える時間も少なくなった。

けど、それでも良いんだ。

僕が大きくなって、赤服を着られる様になれば、ギルの力になれるし、ギルを守る事だって出来る。

…僕は何時だってギルの味方だ。

ギルの邪魔をするモノは何だって取り除いてあげたい。

その覚悟だって有る。

だけど、ギルが頼りにするのは何時だってラウで…。

僕だってギルの力になりたいのに、僕だってギルの事が好きなのに、…小さい頃の僕は、それが正直とても悲しかった。

でも、今は違う。

あのラウは、もう何処にもいない。

そう、僕が、次のラウだ…。
 

そう云えば、何時からかあのラウが、僕に薬を渡してくれる様になった。

『“僕等”は“これ”が無いと駄目なのだ』とあのラウが云っていた。

ギルが、何時も薬を飲む僕達を見て、とても辛そうで悲しそうな、薬を飲んでいる僕達より苦しそうな顔をするので、僕はラウに云って、ギルの前では決して薬は飲まない様にしようとラウと二人、密かに約束を交わした。

もう、ギルのあんな顔は見たくなかったから。

…悲しませたくなかった。

僕達は普通の人よりテロメアが短い。

普通の人よりも早く寿命が尽きてしまう。

だからこそ、早くギルを守れる様な男になりたかった。

早く、ギルと肩を並べる様になりたかった。

それが無理でも少しだけでも良いからギルに頼って貰いたかった。

頼れる存在だと認めて貰いたかった。








…ギル、僕は貴方を…








『議長、…先程は申し訳有りませんでした。…幾ら親しいからと云ってあんな軽率な行動を取るなんて、私はどうかしていました』

軍の施設内の一室に、議長直々に呼び出され部屋に向かい、部屋に入るなり先程の愚行を詫びる。

顔から火の噴く思いだった。
 

自分が情けなくて仕方無い。
そうは思っても最早後の祭りである。
が、然し、突然ギルが笑い出す。何事か解らず僕はギルに疑問の視線を向けた。

すると、矢張り柔らかな笑顔でギルは続けた。

『私はこれでも君の保護者であり親のつもりなのだがね。レイ?』

僕の目頭が熱くなる。

『親への挨拶が敬礼とは実に寂しいじゃないか。そうは思わないかい?私は少し寂しかったよ?レイ』

そう云って、ギルは僕の頭を優しく撫でてくれた。僕はとても嬉しくてギルの胸に飛び込み、そしてギュウと抱き締めた。

『それに、二人だけの時は“ギル”と呼んでも構わないんだよレイ?寧ろ、呼んでくれないと私が悲しいのだがね…』

そうして、今度は抱き付く僕の頭をギルは、ぽふぽふと撫でた。それがとても気持ち良くて、ギルにずっとこうしていて欲しかった。










…最初は、

只、

そうして甘えていたかっただけだった。

他には何も、

望んでなどいなかったのに…。

僕の幼い欲望はやがて、

変貌を遂げる。



その欲望の名前を、



僕はまだ、



…知らなかった…。


 
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