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□エム
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インターホンを押して
君を待つこと3分。
いまさら、僕はなにも話したくないの。
君の口から出る言葉ったら、すべてが宙に消えてく。

シャボン玉より性質悪い。

呼ばれて家を出て、走ってきて
でも会いたくないって、君がこのまま気づかなかったら良いなって。
だけど、不安になるのは僕の悪い癖。昔の癖。

君の名を呼ぶの。
いまさらに。



「いらっしゃい」


ほら、何も悪くないような顔して。
呼んだくせに。
漏れて聞こえるのはつまらない邦画のワンシーン。
君の趣味。

いつだって、こうだった。
僕は所詮僕以上ではなくって
君は僕を疎ましく思って
僕は所詮偽物でしかなくって
君は僕を笑い者に仕立て上げる

優しい言葉は、君の為に吐かれたものでしかなくて。
僕は馬鹿だから。
それに縋り付いて膝を擦りむくんだ。



「あの、僕。タイミング悪かったかな。」

君の視線が、面倒だと僕を睨む気がした。



「あ、ううん。大丈夫。」


なにも変わらない聞きなれていた台詞。
何度目かも判らない台詞。
君の考えてることくらい、薄々感づいてる。

僕を馬鹿にしないで。

そんな風に触れたって、もうキスはしない。
もう僕は、君のなんでもないんだから。


「何で、僕を呼んだの。」


幾度と無く口に出して、結果を出さなかった言葉。
キスをして。
ここで、キスをして。
誤魔化すときの君のお得意の、


「久しぶり。」


思い出せ。なにか鮮やかな記憶。
君の声の特徴は、仕草の大人じみたところは
僕は何で忘れたいの。

纏うのは煙草の香りと
甘ったるい香水と
肩に添える指先と、
困ったみたいな笑い顔と


僕はいつのことを、見てるの。


「なっ…んで…。」


やっとのことで漏れた言葉は不恰好ながらもきっと音になった。

例えば、嘘つきだったのは、誰。
あのとき泣き付かなかったのは誰。
君を拒絶して、一人で走り出したのは誰。

君に掛ける合図。
僕は所詮言葉を苦手としているのだけど。



唇、重ねて。強がりを、重ねて。


なのに、今更。
脳裏過ぎる言葉達、伝えたいのは

どうして。





*end*
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