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□infin!te rain
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人類最後の日まで残すところ、あと3日です。

なんて、綺麗な声で女性アナウンサーが言うもんだから
耐え切れず僕は盛大に吹きだす。
食卓に並べられているハムエッグに、ストレーティーがかかった。
向かい合わせ、インザーギは固まった。



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  infin!te rain

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少し肌寒い、金曜日の朝。快晴。

朝食の片付けは、ちょっとご機嫌ななめなインザーギに任せて、ね。
僕はリビングのソファ、寝転がって週刊誌をめくる。

つい最近買ったチェックのタオルケットに包まるようにしてね。
きっと、今の僕ってば蓑虫か何かみたいに見えるだろう。

目に良くない配色の目次。
コレでもかというほどの大きな文字でハルマゲドン襲来とか書いてある。
でも、多分、違うんだと思う。
よくわかんないなあ。
上体を起こしてミニテーブルの上、スナック菓子に手を伸ばした。


「何がわかんないの?」


美味しそうにコーヒーを啜りながらインザーギ。
普段よりも、僅かに低めの語調。

働きっぱなしの頭を休める為の、只の呟きは掬い上げられて
知らない間に勝手に会話になってしまっていたらしい。
ああ、退屈って言うのはこれだからいけない。
例えばフライパンを仕舞う場所とか、コーヒーメーカーの手入れの仕方とか。
そんなことが、気になってしまうんだよね。

ところで、僕は昨日ハムエッグを作ろうとして焦げ付かせてしまったから
それ以来インザーギは苛々しているみたい。
お気に入りの赤いフライパンを、少し焦がしたからだろうか。
なんてね。

つまり、細部にまで気を使うのって、結構エネルギー使うんだ。ってこと。


ここ、座ったら?
起き上がって、二人掛けののグレーのソファ。
僕が親切ににね、座りなおした隣、遠慮がちに腰掛ける彼。


「人類滅亡って言われても。」

「うん。」


ああ、もう。
核心に触れてないのに頷くの、癖だろ。
僕は、未だに少し冷えるのもあって、頬を膨らめて不満気にしたのに
残念なことに気づいてもらえなかったから、すぐにやめた。

そうやってさ、真剣な瞳で、無言で、じいっと見つめるの、嫌だ。
落ち着いた風に少し首傾げて、僕が口を開くのを、話の続きを、待ってるの。
やめてよ、似合わないってば。


「僕ら死ぬのかな。」

「そうじゃない?だって地球が消えるんだし。」


へぇ。
やっぱり地球は消えるのか。そうなのか。
うん、そう。

下手したら僕よりも冷静らしい彼は、二度頷くとまたカップに口付ける。
相槌をうってから漸くに僕は、ハルマゲドンの記事に目を通す。

有名な災害パニック系映画のワンシーンを切って貼ったみたいな
酷く娯楽的なレイアウト。
何かのエンターテインメントかと見間違えそうだけれど。
ああ、でもとりあえず、この人類最大の危機についてもちゃんと書いてあるらしい。

えっと、なになに…
宇宙空間内におけるブラックホールの拡大は…


「ね。そこに書いてあるでしょ。」


インザーギは少し笑って言うとテーブルにカップを置いた。

もうそろそろ、家を出る時間。
時計を気にしてページを閉じて、立ち上がる。
途端にひんやり冷たい、フローリングの床。足元。

あ。そうだ、靴下履き忘れてた。
いや、そうじゃなくって。
先に読むなよな、これ僕の雑誌だぞ。



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