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□エム
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インターホンに撃たれて
テレビの画面もそのままに玄関に向かう。
見かけによらず、従順なところのある君だ。
留守録に残した声を聞いてすぐに家を出たのだろう。

そんなところばかりならかわいいのに。

リビングに通せるように
テーブルの上、広がる紙の束たちを軽く整えていたら
せっかちな君が声を出して名乗るのが聞こえた。

安価なマンションだ。
扉は薄いんだろう。



「いらっしゃい。」


薄いくせに重い扉を開ければ、この寒いのにパーカー姿の君。
当たり前。
寒いんだろう。
乱雑に巻いたマフラーに口元まで埋めて、俯いてる。
なんでこうも君は。

もう少し強気に出ても、俺は気にしないのに。
いつからだろうね。
こうなったのは。
もしかしたら、会った時から
ずっとこうだったかもしれない。


漸くあげた君の目は、申し訳なさそうに俺越しに室内伺う。
そうやっていつも。
なんで、いつも。

どうしたの。
なんて直接口に出さないで見つめて待つ。
悪い気はしない。
よく知る君の事だ。



「あの、僕。タイミング悪かったかな。」


やっとのことで視線合わせる君。



「あ、ううん。大丈夫。」


返してやると、ほっとしたように笑顔を作って見せた。
かわいい顔。
でも、本当は本心じゃないくせに。

少し手を伸ばしてほほに触れる。

冷たい。

君は驚いたように目を丸くして
それから恥ずかしそうに目を逸らした。


「何で、僕を呼んだの。」


感情の読み取れない声色。
嘘。
少し怒り混じる抑揚ない声。
不安混じる小さくなる語尾。

答えるつもりは、未だ無い。
明日来るかもしれないし、明後日来るかもしれない。


「久しぶり。」


ずるい手段だと思いながら
段差の分余計に小さな君の額に口付けた。

怒るかな、と思ったけれど。
唇噛んだ君の睫伝う涙。
嗚咽。
弱弱しい君。
口癖のように謝る君。


そのくせ甘え下手な君。


「なっ…んで…。」


俺は、つまるところ悪い性格なんだ。
頭が悪いんだ。
だから君とはうまくいかない。
君ほどに、俺を好きでいられない。
一連の合図に
厭きられている仕草に、台詞。
それでも、望まれているから。



唇、重ねて。ばれた嘘、重ねて。



なのに、今更。
確かに奏でた旋律が、蘇るのは

どうして。




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