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□黒猫リボン
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僕にとって、窓の外の景色はなんだか別世界のようだった。
違和感がある。みたいな。
焼きこみを何度もかけて色調補正をしたみたいな。
いや、違和感があるのはこの部屋だ。
テーブルに並んでいるさくらんぼのチョコを一つ摘まんで、転がす。
嗚呼。困惑の沈黙。
耐え切れずに、僕は重ねて聞いた。

「なにか言ってる?」




*黒猫リボン*





小一時間前のことだ。

黒髪の彼は、ゆっくりともゆったりともつかないような動作で頷いてみせた。
さも、当然。とでも言いたげな。
肯定。


「そうなんだ?」


僕は社交辞令的に相槌を返した。
とりあえず、そうするべきだと思ったし、無言でいるのでは良くないし。
さらにいえば、シカトなんてしたら
きっと、ごたまはしつこく「何?」と聞いてくるだろうから。
だから、これは仕方なしの相槌であって
決してアンダースタンドではないんだ。
そういう雰囲気をたっぷり持たせた。

のに。


「そう」


ごたまは、頷いてくれた。
まったく気にする様子も無かった。
最終手段。
僕は「へー」とも「ふーん」ともわからない、欠片もやる気の無い音を漏らしながら
“許可を取らなければならない対象”
に視線をやった。

黒猫。どうみても、ただの、黒猫。




「ね、ごたま?」

「なに」

「どうしてハロウィンパーティーをするにあたって、ジルの許可が必要なのかな?」



包みを開けて、今まさに口に運ぼうとしていたチョコを空中で止め、彼は目線を天井にやった。
僕が、常識的に考えた結果生まれた当然の疑問に
彼は悩んでいるのだ。

数学の公式を応用できない生徒に、どう説明したらいいのかと
言葉を探す教師のような表情をしていて
なんだか吹きだしそうだ。


僕は、逃げるようにテーブル上のコーラのグラスに手を伸ばして
彼の言葉を待つことにした。


*
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