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□黒猫リボン
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「ハロウィンは、魔力が高まるから、変身が解けて本来の姿に戻る」


ごたまがのたまったので


「ジルはもともと人間なの?」


僕は素直に驚いてみせたが


「そうだけど。」


と、返ってきたので
もうそれ以上は何も言わなかった。





そして今、彼は
黒猫ジル―――もとい、ジルに許可を求めているのだ。


僕は3つめのチョコレートを舌の上で転がしつつ、その様子を眺める。

なんだかなあ。
なんでこんな変わった子、好きになっちゃったのかな。
チョコレートが溶け出して、お酒の味とさくらんぼの甘さが押し寄せて
ちょっと酔いそうになる。


彼は、しばらく抱き上げたジルさんと対話をしていた
(僕にはわからないけれども)が
なにか、まとまった結論が出たらしい。


「なんだって?」


口残る酒の苦味に慣れずに
子供っぽく、若干顔をしかめてしまう。


「別にいいって。大丈夫らしいよ。」

「なんだ。見たかったのに。人間に戻ったとこ。」

「見られたくないから、多分無理。」


ごたまは、手付かずのまま置かれていたコーラをほぼ一気に飲み干した。
僕はふうん、と、頷く。


「じゃあ、ハロウィンパーティーできるね?」

「できない。」


彼は僕の向かいに腰を下ろし
包みを開けたままのチョコレートを
ようやく口に入れたらしかった。
視線を上げると
それはもう幸せそうな笑みでそれを頬張っている。
そんなにチョコ好きだったっけ。


僕は違和感に流されることを、よしとした。
きっと酒にやられたんだろう。


「どうして?」


僕は社交辞令的に疑問を投げた。
とりあえず、そうするべきだと思ったし、無言でいるのでは良くないし。
さらにいえば
気付いたことがバレたらきっと、ごたまは困ってしまうだろうから。
だから、これは形式としての疑問であって、決してホワイではないんだ。

そういう雰囲気をたっぷり持たせた。



「にゃあ」



彼は、満足げにひとつ鳴いた。

僕は世界が回るのを感じながら
立ち上がって彼の頭を撫でた。
いいんじゃないかな、こういうのも。
企業の陰謀に踊らされるよりも、うんと素敵だ。

黒髪の彼は、ゆっくりともゆったりともつかないような動作で頷いてみせた。

公式をうまく利用して文章題を解いた生徒に送る、無音のことばが聞こえた気がした。




*end*
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