silver
□手を伸ばせば
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「高杉!どこじゃ!」
雨の中、どこかも分からない彼に叫ぶ。
「高杉っ…返事をするんじゃ高杉!」
返事は返って来ない。
ただ、ざあざあと雨の音が響くばかり。
先程まで坂本辰馬と高杉晋助は、一緒だった。
仲良く…とまではいかなかったが、何気ない事を話しながら通りを歩いていた。
しかし、運悪く真選組の隊服に囲まれてしまい一緒に逃げようと坂本が伸ばした手は届かず、高杉は走って行った。
「追えっ!」
そう言って隊服も、高杉の後を追って全て居なくなった。
「…高杉っ」
坂本も、とにかくその方向へ走った。
高杉の事だ。
簡単に捕まる程の男ではない。
知っているが、分かっているが。
愛しいあの人が心配なの。
高杉を探していくうちに雨が降ってきて、すぐやむかと思っていたらどんどん雨は強くなった。
この雨の中、寒さで震える高杉を想像してしまって気が焦る。
どこかで雨宿りでもしていたらいいのだけど…。
でも、もし、斬られていたら…。
一抹の不安が頭を過ぎる。
「高杉!!」
そんな不安を消したくて大声を出すが、不安は消えないし、高杉も見つからない。
どこに隠れているんだ。
早く、早く出てきて。
……もと
「……ん?」
呼ばれたような気がして振り向くが、そこにはただ路地裏があるだけ。
「?」
視界の隅の方に、紫色の布切れのような物が見えた。
「高杉…?」
今日何度呼んだか分からない彼の名を呼びながら、布が見えた所まで近付いて覗き込む。
「高杉っ…」
「…うるせェ」
「うぉっ!」
いきなり返ってきた返事にびっくりした。
「なんだよ…うぉっ!て。俺を探してたんじゃねぇのかよ…」
「高杉っ!!」
力の限り高杉を抱き締める。
離さないようにしっかりと掴んで置きたかった。
暫くずっと抱き締めていると、頭を殴られた。
「いだっ!」
「痛てェのはこっちだバカ本!殺す気か!」
「全力で締めたからのぅ…あっはっはっは」
悪びれもせず、とりあえず笑っておく。
「…あっはっはっはじゃねェ」
「おんしが一人で逃げるからじゃ」
「それは………」
口ごもってしまった高杉を、もう一度抱きしめる。
今度は優しく。
「次は一緒に逃げるぜよ」
「は?……お前…快援隊はどうすんだよ」
「捕まらないから大丈夫じゃ」
いつもみたいに呑気な声を出してそう答える。
だって、貴方となら絶対捕まらないから。
捕まらせないから。
そう囁くと、「…そうかよ」と腕の中で大人しくなった。
次逃げる時は、手を伸ばして貴方の手を掴んで守るから。
だからどうか
手を伸ばしてもいつも届く範囲に貴方が居ますように。