silver

夕日
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秋の日の放課後……

高杉は借りた本を返す為に図書室へ向かった。

だが何故か図書室は開いておらず、司書の先生を探すはめになってしまった。

次の日にしてもいいのだが、前回も前々回も返すのが遅くなった為、司書の先生から「次遅れたら、一週間本借りるの禁止」と言われていたのだ。

そうなったのは自分が悪いのだから、文句は言えないが、本を読めないのは辛い。

「…ありがとうございました」
やっと本を返し終わった頃にはもう、外はオレンジ色で、部活動をしていた生徒はとっくに帰宅していて、学校はしんと静まり返っていた。

(なんか、夕日ってあいつみたいだな…)

そう思ってからふと、オレンジ色に染まった校舎の中を走りだす。

向かう先は三階にある教室。
きっと“待ってる”と何故だか思ってしまう。
自惚れだろうか。


本当ならば誰も居ない筈の教室の扉を開けると、窓側にある自分の席に誰かが座っている。
というか、机に伏せて寝てる。
そのせいで顔は解らないが、誰だかはもう見なくても解っている。


「辰馬」

「……」

「…辰馬?」
呼び掛けてもぴくりとも反応しない。

「寝てんのか


辰馬の寝てる席の隣りの席に座り、寝ている奴の顔を覗き込む。

(待っててくれたんだな…)

オレンジ色に染まった無防備な寝顔。
今、この寝顔を独占しているのは自分ただ一人。

くしゃくしゃした髪に手を伸ばす。

せめて今だけ…お前は俺の物。

「辰馬…好きだぜ」

耳元へ顔を近付け囁く。

聞こえる筈もないが、精一杯の本気の告白。

「ん…」
辰馬がもぞもぞと動き出す。

(やべぇ…起こしちまったか)

そう思って離れようとした瞬間、辰馬の腕が伸びてきて。
あっという間に奴の腕に抱きしめられる。

背中に辰馬の体温を感じる。

「な……お前、起きてたのかよ?」

さっきの告白とか、聞かれていたらすごく恥ずかしい。

「わしも大好きじゃよ…晋助」
「やっぱり起きてたん…っ」
なんで寝た振りしてたんだよと聞こうとして振り向くと、唇を塞がれた。
勿論、唇で。


「…んっ……」

舌と舌を絡めて、触れて、舐めて、お互いを確かめるキス。

誰もいない教室ってのは、雰囲気がある気がする。



暫くして、どちらからともなく口付けを解く。


赤くなった顔を見られないように、前を向く。

「…待っててくれて
ありがとよ」

ボソリと小さく呟く。

「晋助の為なら一生待つぜよ!」
ギュッと腕の力を強くして奴は言う。

「一生なんて待ってたらくたばるっての」



頭だけ動かして、ちらりと辰馬を見る。

「どうしたんじゃ?」
オレンジの光がこいつの優しさを表しているようだ、なんて柄にもなく思った。


「なんでもねぇよ」



ニヤリと笑いながらそう答える。







なぁ、辰馬。

もしお前が太陽か夕日なら。

俺を照らしてて。
俺を包んでて。


俺に辰馬がずっと見えてるように。


今だけじゃなく、ずっとお前は俺の物になるように。





 
 

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