男性作家

□井上靖
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天平の甍

1957
中央公論社

 天平5年(733年)、聖武天皇の治世、多治比広成を大使に第九次遣唐使が派遣された。この派遣に先立ち、当時仏教界で最も勢力を持っていると言われていた元興寺の隆尊のもとに、二人の若い僧、普照と栄叡が呼び出された。
 中大兄皇子らによって律令国家として90年、仏教伝来から180年の年月が経っていたが、まだまだ日本は混沌としており、流民が平城京の周囲をたむろし、課役逃れのために勝手に出家する者も少なく、戒律が守られていなかった。このような状況を正すために、中国から優れた戒師を招き、正式の授戒制度を敷く必要があった。普照と栄叡は今回の遣唐使で唐に赴き、戒師を人選し招くことを言い伝えられた。

 普照らが天平5年に留学僧として唐に赴き、盲目になってまで渡日した鑑真などの多くの唐僧を日本に招いて帰国する約20年の苦難の日々を描いた作品。
 視点は普照ら留学僧で、このとき普照と共に唐に渡った栄叡、玄朗、戒融の他、それ以前から渡唐していた業行ら数人の日本人留学僧らが主要な人物として描かれている。それぞれが抱える様々な苦難は現代人にも理解できるものばかりで、それぞれに感情移入させられてしまった。
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