男性作家

□大崎善生
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パイロットフィッシュ

2001
角川書店

 人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない。なぜなら・・・
 深夜二時、山崎のマンションの電話が鳴り響いた。山崎は41歳になるアダルト雑誌の編集長。
「わかる?」
「ああ、わかるよ」
それは、十九年ぶりに聞く由希子の声だった。
 人間の体のどこかに、ありとあらゆる記憶を沈めておく大きな湖のような場所があって、その底には失われたはずの無数の記憶が沈殿している。
 学生時代の彼女との日々、世話になった当時のバイト先の喫茶店店長の家族との出来事などが鮮やかによみがえる。

 共感できる部分もあるものの、やはり違和感を感じる作品である。まず、主人公は41歳なのだが、大人の男としてもう少し色々なことを考えたり悩んだりするものではないだろうか。子供にしか感じられない。また彼の周りに何人かの女性が登場するが、主人公にとって都合が良過ぎて、リアリティが全くない。それと作品の中で1983年の大韓航空機撃墜事件が利用されているが、こんな利用の仕方は許されるものだろうか。吉川英治文学新人賞ということで期待して読んだのだが、私には習作にしか感じられなかった。
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