男性作家

□大沢在昌
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影絵の騎士

2007
集英社

 約半世紀後の近未来。不法滞在外国人の増加に手を焼いた政府は<新外国人法>を制定し、「この国で生まれた子供に対しては両親の国籍にかかわりなく日本国籍を与え、かつその扶養者一名については永住権を与える」こととなった。その直後、特に東京ではベビーブームが爆発し、20歳から40歳までの東京住民の3割が混血で、2048年にはその混血児の9割が旧新宿区周辺に住み、その地域がスラム化した。中心部が極端にスラム化した東京を再生させるための試みとして作られたのが<新東京>で、東京湾に大きな人工島を作り、ここに原子力発電所が建設された。国会を含む政府機関もこの人工島に移転する予定であったが、国会は反対大多数で否決し、結局移転予定地に進出したのは映画産業だった。中国やインドのプロデューサーが進出し、混血児の俳優が活躍し、ハリウッドを越える巨大映画スタジオが誕生した。
 スラム街で生まれた混血児のヨヨギ・ケンは、かつては優秀な調査員であったが、俗に新宿病と呼ばれる原因不明の悪性腫瘍を患った恋人と共にオガサワラに移住し、この地で彼女を失ってから絶望と孤独の生活をしていた。そんな時、作家のヨシオ・石丸からある依頼が入る。

 ケン・ヨヨギを主人公とした「B・D・T 掟の街」に続く近未来ハードボイルド。
 着目すべき点は、ネットワークと呼ばれるテレビ局が情報を独占し、視聴率を稼ぐために、あるいは世論を操作するために、都合のいいニュースを、場合によってはヤラセやでっち上げを平気で行い、社会を牛耳る。これは現代社会でもある問題だが、これを極端化した世界が描かれている。マスコミのあり方に一石を投じた作品となっている。
 物語はテンポ良く展開し、飽きることはない。ただラストはまるで視聴率が落ちたドラマを強引に終わらせるかのごとくであったのが残念。
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