■短編T■
□戻らぬ時
1ページ/11ページ
――――戻らぬ時――――
「吹雪、紹介したい人がいるんです」
村正の言葉に、吹雪は動かしていた筆を止め、ゆっくりと振り返った。
「ごめんなさいね。仕事中邪魔してしまって」
そう言いながらも、いつものように
ニコニコと笑う村正の横には、見慣れぬ女が立っていた。
「姫時と申します」
女は、透き通る声で丁寧に一礼する。
村正と似ている、端麗な顔立ち。
長くたれた光る髪が、白い肌にかかっていた。
「私の妹の姫時です。今日から、ここへ
顔を出す機会があるかもしれないので、その時はよろしくお願いしますね」
村正がそう言うと、姫時は柔らかく微笑んだ。