ギフト
□じぶんをしらない、おろかなけんじゃのはなし
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やはり、地上は滅びていた。
風すらも吹かない、死に絶えた大地を踏みながら、彼は歩く。
ゆっくりと彼が空中で掴む動作をすると、その手の中に革袋が現れた。
彼はその中に手を入れ、捕まえた物を無造作に辺りへと撒く。
それはキラキラと輝く細かな粒子で、すぐに空気へと溶けて消えた。
それは彼にしか取り出せず、それを撒き散らすと、長い年月を経て滅びた世界がまた命を息吹かせるのだ。
彼は、その輝きを『命の種』と呼んだ。
命を息吹かせる奇跡の粒子を撒き続けながら、彼は歩く。
けれど、やがてその歩みは止まった。
袋の中身が尽きたからではない。
彼の視線は、己の足下へと向かっていた。
枯れた木々が散乱する、死に絶えた砂の大地の上。
そこへ佇む彼の足下に、その黒い塊は落ちていた。
ただの動物の死骸ですら、もはや形を残していることが珍しいというのに、それは黒い鳥の姿をしていた。鴉だ。
傷だらけのその鳥の傍には囓りかけの萎びた林檎が落ちていた。
食事をしようとしたが、もはやその力すら無くしてしまったのだろう、ということは易々と伺えた。
そうして力尽き、命を無くしてしまった物体であったのなら、彼の足は止まらずに済んだ。
けれど。
けれど、それは生きていた。
彼は目を見開く。
そこには世界で最後の一匹が居た。
それは、どうしようもない奇跡だった。
奇跡としか呼べなかった。
彼はゆっくりと手を動かし、袋の中から掴みだした奇跡の粒子を、ゆっくりと鴉へ与える。
奇跡の種は特別な物で、とても稀少だ。
しかしそんな奇跡など、この死に絶えた地上で生きている生命に出会えたことに比べれば、無きに等しいことだった。
だから彼はそれを惜しげもなく鴉へと与えた。
鴉にそれを与え終え、傷が癒え始めるのを彼は確認する。
その後、今度は鴉の上とは別の位置でそっと袋を逆さにし、中身の全てを空中に撒いた。
それから屈み込み、傷がふさがりだした鴉へと手を伸ばす。
そして。
彼は、世界にただ一つの命を抱き上げた。
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