ギフト
□真冬の来襲者
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言いながら、ハヤトの視線は、公園向かいのパチンコ店へ向く。
きっと、この子どもの待ち人とやらも、あの大人の娯楽店で楽しんでいるのだろう。
中にも待つ場所はあるだろうが、あまりにも暇すぎて一人で出てきてしまったに違いない。
ハヤトがそんな風に思っていることなど知るよしもない少女は、もう一度首を振った。
「おかあさんとも、おとうさんとも、ちがうわ。でも、すぐくるって、いってたの」
はっきりとそう言う少女に、ハヤトは、そう、とだけ答える。
少女の鼻と頬は赤くなっていて、やはりこの寒い中でしばらく待っていたのだろうことが伺えた。
健気な子どもに目を細めたハヤトの手を、小さな手袋が捕まえる。
「ねぇ、ちょっと、いっしょにいて?」
綺麗な金色の瞳がハヤトを見上げた。
「……うん、いいよ」
一人きりは寂しいだろうと、ハヤトは軽く頷いて答える。コンビニへは、少女の待ち人が来てから行けばいい。
「じゃあ、俺と遊ぼう」
「……うん」
ハヤトの言葉に、少女は頷いた。ハヤトは腰を上げて、ブランコに座ったままの少女の後ろへ回る。
「じゃあ、これ動かすから。しっかり捕まっててね」
「うごかす?」
「そう。……ほら」
不思議そうな少女に微笑んで、ハヤトの手がブランコを軽く押した。
規則的に、少しずつ振り幅を広げながらブランコが揺れていく。
驚いて目を瞬かせていた少女は、自分の足が地面に着いていないことを確認して、更に目を見開いている。
振り幅を広げすぎないように注意しながら、ハヤトは更に数回、ブランコを動かした。
そして、手を離し、少女の後ろから側面へ回る。
少女は、ゆっくりと収まっていく揺れに体を任せながら、ハヤトの方を見た。
「……おもしろいわ」
とても驚いたらしい少女の目はきらきらと輝いていて、もう一度動かして、と高い声が催促した。
ハヤトは笑って、その手のひらでもう一度、少女のブランコを動かした。
今度はこぎ方も教えようかと、身振りで説明も加えながら。
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ブランコの講習が終わり、少女が自在にその遊具を扱えるようになった頃、日が傾き、寒さは少しばかり増したようだった。
ハヤトはそれに気付き、きょろりと視線を動かした。
「どうしたの?」
ハヤトの行動に、少女が不思議そうに問いかける。
「ちょっとね。おいで?」
言いながら、ハヤトは少女へ手を差し伸べた。
まるで子どもを拐かす悪い大人のようだったかなと思うが、少女は気にした風もなく頷いて、その小さな手をハヤトへと預ける。
そのまま少女の手を引いて、ハヤトは公園の出口を目指した。
「……ここで、ひと、まってるのよ?」
何処へ連れて行かれるのだろうかと不思議そうにしながら、少女が呟いた。しかし抵抗などはせず、ただひたすらに不思議そうなだけだ。
ちょっと出るだけ、すぐ戻るよ、とハヤトが答えると、それ以上尋ねたりもしない。
この子はちょっと無防備すぎやしないか、と、ハヤトは少し心配になった。
日本にだって凶悪事件はあるのだ。多少の用心は必要なのではないだろうか。
けれど、別にハヤト自身は危害を加えたりするつもりも無いからとあえて口にはせずに、少女と手を繋いだままその足は公園を出る。
そして、車の通らない車道を渡って、目指していた場所へ着いた。
公園向かいにあるパチンコ店の表に、一台佇む自動販売機だ。
「飲み物買おう。何飲みたい?」
暖かい飲み物を飲めば、少しは寒さもマシだろう。そんな風に思いながら、ハヤトは自動販売機を指差した。
少女は、少し困ったように眉を寄せる。
「……おかね、もってないわ」
「え? ああ、いいよいいよ。奢っちゃうって」
金銭の概念を理解している幼い少女に驚きながら、ハヤトは笑ってポケットから財布を出した。そうして中身を確認する。
大丈夫。二人分の飲み物くらいなら全然余裕だ。
硬貨を数枚取り出し、それを握ったまま、ハヤトは少女を軽く抱き上げる。
触れた小さな体は少し冷たいようで、ブランコに乗せすぎたなとハヤトは反省した。
突然抱き上げられた少女は驚いたように身を固くしたが、その視点を上げる為だと気付くとすぐに力を抜いた。
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