ギフト
□真冬の来襲者
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今年のクリスマスは雪が降らなかったな、などとぼんやり思ったハヤトは、このまま大晦日と正月が終わるまでは降らないと良いな、とも思った。
何故ならハヤトの家族は、毎年必ず初詣に行くからだ。滑るし転ぶし濡れるし寒いから、雪に降られては堪らない。
どうせ、雪が降ったとしても、滑ったり転んだり濡れたり寒さに震えたりしながら、初詣に行くしかないのだけれど。
やがて信号の色が変わり、童謡の流れる横断歩道を一人で渡る。
その時顔を叩いた風は酷く冷たく、ハヤトは身震いした。
コンビニを目指して、足早に真っ直ぐ進む。コンビニの看板が見え、段々と近付いていく。
しかしハヤトの足は、コンビニよりも二軒手前にあるパチンコ店の前で止まった。
中からは騒がしい音がしていて、店の前には自動販売機が一台佇んでいる。
別にパチンコ店やその自動販売機に用がある訳ではない。
ハヤトの顔が向いていたのは、パチンコ店の向かいにある、小さな公園だった。
鉄に触ったらくっついたまま離れなくなるのではないか、などと考えてしまうくらいに寒いというのに、公園の中に人がいたのだ。
ファーをふんだんにあしらった黒いコートを着て、灰色のマフラーを巻き、黒いニット帽で小さな頭をすっぽりと覆っている。
手を包んでいるのはコートと同じく黒い手袋で、足下の小さなブーツも同じ色だ。
呼吸をする度に、その顔の前が白く煙り、そして吹いた風に消えていく。
その人影は小さな子どもで、何故か一人でブランコに座っていた。
こんな寒い日に、外に、子どもが一人で居るものだろうか。
ハヤトは思わず公園内を見回した。
しかし、その小さな子ども以外に、人影は無い。
迷子だろうか。
思わずそんなことを考えたハヤトは、しかし、そっとそれを否定した。
迷子なら、あんな風にぼんやりとブランコに座ったりはせず、あたりを見回したりとか、するはずだ。
しかし、子どもにそんな様子は無い。
だから大丈夫だと考える頭の隅で、うろうろして疲れたのかも知れないよ、と誰かが言った。
ハヤトの頭の中で流れた声なのだからそれはハヤト自身の考えで、ハヤトは少し眉を寄せた。
「うーん……」
しかし、突然声を掛けたりしたら不審者に違いない。
そんな事を心配したハヤトの顔を、冷たい風が吹き付ける。思わず身を竦ませた彼の耳に、小さなくしゃみが聞こえた。
辺りにはハヤトと少女以外に居ないのだから、それは少女の物だ。
もしかして、長いこと外に居るのかも知れない。
そう思ったハヤトは、ようやく、その足を公園へ踏み入れた。
「えっと……君、迷子なのかな?」
まっすぐ公園内を横切って子どもに近付き、ハヤトは直球でそう尋ねた。
掛けられた言葉に驚いたように顔を上げたその子どもは、大きな目をこれでもかと言うほどに瞬かせて、それから首を振る。
「……ひとを、まってる、だけよ」
高い声がそう答える。
その声と顔立ちを見て、どうやら女の子らしい、とハヤトは認識した。そして外国人のようだとも考えた。
子どもは、綺麗な金色の目をしていたからだ。髪の色はニット帽で見えないが、その睫毛の色の薄さからして、黒ではないだろう。
肌も、日本人の色ではない黒さを滑らかに宿している。
日本語をはっきりと話すから、日本育ちなのかも知れない。
全身を殆ど黒でまとめた小さな子どもは、ブランコに座ったままハヤトを見上げている。
ハヤトは、少女の正面で屈み、迷子ではなかった少女の顔を少し見上げるようにした。
「待ってるって、お母さん? それともお父さんかな」
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