ギフト
□永遠に欠ける一滴の間だけでも。
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赤黒い布。
その下には、赤く濡れた女の体と、血で汚れた剣の鞘があった。
服の裂け方からするに、斬撃だ。
驚いて目を見張った俺に、隠せる物でも無いかと笑って女が布から手を離した。
手放された布は、そのまま数秒中に浮いて、そしてひらひらと埃まみれの床へと沈む。
影になっていて分からなかったが、女の足下の床も、少し赤で汚れているようだった。
「面倒事ですまないが……私は今、追われているんだ」
申し訳なさそうに、女が言う。
「匿ってくれるだけで構わない。この位の傷なら自分で」
「……動くな」
治せるから、とまでは言わせずに遮って、俺は女へと数歩近付いた。
そして、女の患部へと目を向ける。
血が止まっているのかどうかも分からないほどに真っ赤なそこは、濡れていて、錆の匂いがする。
右手を軽く上向けて、ゆっくりと空気を握り込み、それから女の腹部へと向けて開き放つ。
現れた小さな光の玉が、ゆっくりと女の体に吸い込まれていく。
「? 何だ……?」
少しの戸惑いと共に女が腹部を見るが、身動きはしなかった。害意が無いことを見抜いているか、余程の間抜けかのどちらかだろう。
そんな女を見ながら、俺は訊ねる。
「まだ痛むか」
「え? ……いいや」
言われて、それから顔を上げて女は答えた。
少し意外そうに目を丸くしながら、それでもその顔は笑っている。
「凄いな、全然痛みが無い。これが魔術という奴か?」
「……まだ傷は癒せていない。触るな」
言いながら患部を撫でようとする相手に言い放ち、今度は右手を緩やかに振った。
女の体が浮き上がる。
「お? うわあぁあお?」
変な声を上げる女に背を向けて俺が歩き出すと、浮いたままの女の体も付いてきた。
魔術でも、一瞬で人の体を癒すことは出来ない。さっさと安静に出来る場所へ連れて行って手当をした方が良いだろう。
「おい、これはどうなってるんだ?」
背後から声が上がる。
「……お前の望みを叶える。女」
歩きながら、俺は肩越しに振り向いた。
「怪我人は大人しく匿われると良い」