ギフト

□永遠に欠ける一滴の間だけでも。
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「……お前が、ここの主なのか?」

 ここ、というのは、この城の事だろう。
 森の奥の、滅多な事では人も歩かないような外れに建てたこの城は、確かに俺の物だ。
 だから頷いて、俺は女から中央のランプに目を向けた。
 何故だろう、錆の匂いがする。
 仕方ない。特別なのは中央のランプだけで、他は通常の物と代わりはしない。そろそろ他のランプにガタが来ているのかもしれない。

「そのランプに火を入れたのか」

 訊ねると、女も己の傍らにあるランプへと視線をやる。
 城の中にあるランプよりも少し底の広い、そして装飾に凝ったその古びたランプは、今だ煌々とした光を宿している。

「ああ。油が残っていたのは、このランプだけだったから」

 答えて、女の目が部屋にある四つのランプを見回した。
 その女の口元に刻まれた笑みは、傷まみれのその顔の中にあっても、決して見苦しくは無かった。

「女」

 俺は口を開く。
 そして、今までそのランプに火を入れてきた者達全てに告げてきた言葉を、繰り返した。

「俺の名前はトルガ。この城の主であり、最古の魔術師」

 手を軽く振ってやれば、油が無くなっていた筈のランプ全てに火が灯る。
 驚いて、女がこちらを見た。

「そのランプに火を入れてくれた礼をしよう。何か、願いは無いか?」

 以前現れた男は、俺の言葉に富を望んだ。
 その左手の薬指で触れた物を全て金になるようにして、それから逢った憶えは無い。
 あの後富と権力に溺れ、孤独に死んだと話に聞いた。
 以前訪れた少年は、俺の言葉に力を願った。
 そして俺の作った魔弓を持ち帰り、それから逢った憶えは無い。
 その後その破壊の武器を操り、国を一つ作り上げたと話を聞いた。
 以前やって来た少女は、俺の言葉に薬と応えた。
 だからどんな病にも効く薬の小瓶を与えて、それから逢った憶えはない。
 後にやって来た別の客人に、同様の病に苦しむ者達に少ない薬を与えた聖女が居たと聞いた。
 この森の奥へとやって来る者達は、皆が何かを求めていた。
 俺の城へと入って、ランプに火を点けるのは、更にその中の一握り。
 目の前の女は、その中の一人なのだ。
 女は、少し考えて、ランプを見つめ、そして俺を見た。

「私はエリゼだ。では、トルガ」

 願いを、その口が告げる。

「ほんの数日で良い。ここに匿ってくれ」

 それだけで良いからと、女が微笑む。
 そんな事を願われた事など無かった。
 いつだって、ここへ来た客人達は願いを告げ、それを叶えてやればすぐさま城を出て行ったと言うのに。
 今度は俺が目を丸くして、エリゼと名乗った女を見つめる。
 よく見れば、女は少し発汗している。顔色も、ランプの明かりでよく分からなかったが、そう良い色でも無いようだ。
 赤黒い、その手が抑えている腰布が、濡れている気がする。
 ゆっくりと手を挙げて、指を弾いて鳴らす。
 女が手で押さえていた腰布が、ふわりと捲れた。
 
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