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□白雪姫
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 慌てて少年は森の中を見る。

 奥に灯りが見えた。

 どうやら民家があるようだ。


「人が住んでるんだ……!」


 森の中に住んでいるなら薪を買ってくれる可能性は低いが、万が一という事もある。

 行かないよりはましだ。

 少年は駆け出す。

 森の中は雪が深く、少年の靴底で踏み締められてぎしぎしと鳴った。

 少年が辿り着いたのは、小さな家だった。

 そんなに奥でもない所にそれは建っていた。

 どうして今まで知らなかったのかと思いながら、少年は扉を叩く。

 大人が居るにしては小さな扉だった。


「すみません、どなたかいませんか?」


 声を上げると、扉が開いた。

 中から顔を出したのは、小さな老人だった。

 丸い小さな眼鏡を掛けて、優しい顔をしていた。


「はいはい、何の用かね?」


 老人は目が悪いらしく、少年に顔を近付けて訊ねた。


「あの、薪は要りませんか?」


 言葉と共に、少年は自分の背中にある商品を指差した。

 老人は顔を顰めて、すまなそうに首を振った。


「悪いが間に合っとるよ」


「……そうですか」


 ほんの少しだけ期待していた分、少年は肩を落とした。

 けれど、すぐに気を取り直して顔を上げる。


「それじゃあ、また今度来ますね。失礼します!」


 ぺこりと頭を下げる。

 それを見ていた老人は、顔を上げた少年の顔をもう一度まじまじと見て、何かに気付いて息を呑んだ。

 驚きに見張られた目に、どうしたのかと少年が目を丸くする。

 老人が、慌てて尋ねた。


「た、薪は買ってやれないが、食事はどうだね? 丁度シチューが出来てるんだが」


「え? えっと、あの、でも……」


 突然の申し出に戸惑う少年の鼻を、家の奥から漂うシチューの香りが擽る。

 そういえば、シチューなど一昨年以来だった。

 昨年の春亡くなった、隣家の老婆が作ってくれたシチューを思い出す。

 外の空気は冷たい。今日も冷え込むだろう。


「ええっと……ごちそうに、なっても?」


 少年がおずおずと訊くと、老人は嬉しそうに頷いた。



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