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□真夏の襲来者
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 目の前には、ブランコと砂場がある。

 そこに、男が一人屈んでいた。

 髪が紫色で、直射日光に照らされて光っている。

 触ったら熱いに違いない。


「……何やってるんだ? あの人……」


 ぼんやりと呟いて、ハヤトは首を傾げる。

 先程まで誰も居なかった筈の公園に突然現れたその男は、砂を撫でながら何かを探しているようだった。

 こんなに暑いのに、気温を気にした様子も無い。

 熱中症になったらどうするのだろう。

 ハヤトは男の背中を見つめた。

 そして、しばらく考えた。


「……あの……」


 気付けば、ハヤトは、日向よりは涼しい木陰を出て、帽子を被って男の隣りに立っていた。

 声を掛けてきた存在に驚いたのか、男が立ち上がる。

 男は背が高く、明るい紫色に丁寧に染めた髪を揺らして、金色の瞳でハヤトを見た。

 カラーコンタクトでも入れているのだろうか。

 肌は黒い。日焼けを気にする必要はなさそうだ。


「……何か、探してるんすか? 手伝います?」


 頬を汗が伝うのを感じながら、ハヤトが訊ねる。

 すると、男の顔がにこやかになった。とても嬉しそうに笑って、そして手を差し出して来た。 


「ありがとうゴザイマス!」


 男はハヤトの手を強引に握り、ぶんぶんと上下に振る。

 無駄に豪快な行動に、されるがままに手を預けながら『外国人か』、とハヤトは偏見を持って考えた。

 初対面の相手にここまで友好的な態度を取るのだ。

 きっとそういった文化のある国の人間に違いない。

 そうであれば、何を考えたのか分からない髪の色も、 黄色人種では中々見られない黒さの肌にも納得がいく。


「あー……どんな物を無くしたんすか?」


 とりあえずはそう訊ねると、男は手を振るのを止めて、ハヤトの顔の前に指を持ってきた。

 少々小さい、ビー玉程度の大きさをその指で示す。


「この位の指輪デス。この砂の辺りで無くしマシタ、多分」


「指輪ですかぁ」


 どう考えても男の指には入らない大きさだ。

 指から外れたのではなく、落としてしまったのだろう。

 ハヤトは頷いて、じゃあ、と男から手を引き剥がした。

 男の体温は暑くて、じんわりと掌が汗をかいていた。

 男はまた屈んで、砂を撫で始める。感触で探しているようだ。

 もしかしたら少し目が悪いのだろうか。

 それを見てから、ハヤトも足元を眺めつつ砂場を歩き出した。

 その指輪が金属かそれに近い材質なら、太陽の光を反射して光るかもしれない。



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