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□のうぜんかずらの夢
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玄関から慌てて彼女が出てきた時、私は丁度、彼女の家の前に辿り着いた所だった。
彼女は、どうやら寝間着らしい大きめのシャツとズボンを着けて、不思議な物を見たような戸惑った顔をしていた。
目が少し赤く、瞼も腫れて見える。
「……やっほ、千夏。遅くにごめんね」
呼ばれて、呆けた顔をした千夏は、寝癖のある髪を揺らして目を見開く。
「……かずら……」
かずら。
寝起きだからか擦れた声が呼んだそれは、千夏が私に付けたあだ名だ。
にっこりと笑う私の前で、慌てた様子で門が開かれる。
「は、入って!」
いいながら、千夏が私の腕を掴んだ。
まるで、早くしないと私が消えてしまうと思っているようだ。
苦笑しながら従って、私は門の内へと入った。
そのまま、連れて行かれたのは彼女の家の庭だった。
流石に、こんな時間に人の家に上がるわけにも行かない。
千夏の母親はガーデニングが趣味で、庭は緑色で埋まっていた。
奥の方には小さな犬小屋があり、その主がぐっすりと寝ている。
庭を見回していった私は、その内、木に絡んで葉を茂らせている植物を見つけて笑った。
凌霄花(のうぜんかずら)だ。
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