精霊シリーズ
□ぼくは、てをのばした。
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そうして、茂み達の間を抜けて、俺を呼ぶその何かのある場所へ、ようやく辿り着く。
高く高くそそり立つ崖がある、その下。
俺の、目の前に。
「な……!?」
子供が、落ちていた。
黒い髪、顔の左半分を覆っている白い包帯。
目を閉じて、仰向けで、まるで眠ってでもいるかのようで。
いや、もしかしたら死んでるのかも知れない。凄い量の血が出ている。
崖から落ちたのだろうことは明白だった。
俺は駆け寄って、俺と年齢はそう変わらないだろうその子の傍に膝をつき、その顔を覗き込む。
「……おい、生きてるのか……!?」
ぶしつけに呼び掛けると、少し間を置いてから、弱々しくその瞼が開かれた。
闇の淵みたいに真っ暗な瞳がそこから覗いて、俺を見る。
「あ、良かった、意識あるんだ? 聞こえてる?」
意識があることにほっとしながら訊ねると、頷こうとしたらしい子供は、僅かに動いて顔を顰めた。
白い包帯がじわじわと赤くなっていく。
今の動きで更に出血したらしい。
大丈夫か、と手を伸ばし掛けた俺は、しかしそれを途中で止めた。
少し動いただけで今の出血だ。下手に触ったら不味いかも知れない。
しかし、そうなると、抱き上げて治療が出来るところへ運ぶなんて事は出来そうにない。
風の精霊を呼ぼうかとも思うけれど、あの運び方は風任せで力加減が上手く出来ないからか、結構荒っぽい。運んでいく間に死んでしまったら大変だ。
ここに、治療が出来る人を呼んだ方が良いだろう。
そして、俺は、そんな事が出来る知り合いを一人しか知らない。
俺は決めて、子どもを見下ろしながら立ち上がった。
そして、何かを言うより早く走り出す。
早く。
早く早く早く。
早くしないと、あの子は死んでしまう。
そう思ったから、だから一目散に走った。
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出来ることなら許して欲しかった
でも俺に償えることなど何があるだろう
奪った物は戻らない
俺は 貴方が嫌いなんじゃない
けれど 貴方は俺が憎いだろう?
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