精霊シリーズ
□災厄色の髪
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目を覆いたいほどに美しかった
開いたのは紅色の花
そして
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「それでね、レイカがじぶんでやったの!」
「そうかぁ、偉いな、レイカは」
「えへへへっ。でね、それからね、いつもね」
嬉しそうに、レイカが話を紡ぐ。
それに耳を傾けて、微笑んで、頭を撫でる。
俺とレイカは、レイカの為に作られた小さな家の中で、そんな風にして過ごした。
いつもはレイカの身の回りの世話をする使い女も、今はいない。
俺と入れ替わりで、元々いた世界へと戻っている。
そして、俺がここから向こうへ戻る時に、次の使い女がやってくるのだ。
同じ人がずっとレイカの傍にいることは無い。
この世界の時間は、あまりにも遅いから。
元の世界に取り残されることを、恐れている。
「ねぇねぇ、にいさま」
ベッドに入ってもまだ話し続けるレイカは、毛布を引き上げながら俺を見た。
けれど、もう眠いんだろう。可愛らしい大きな瞳が、もう半分閉じている。
「おとうさまとおかあさま、どぉしてるの?」
あふ、と眠たげなあくびを混じらせながら、それでもレイカは訊ねてきた。
「いつきてくれるの……?」
いつ、とは。
俺はレイカを見詰めた。
同じ腹から産まれることの無かった異母妹は、じっと俺を見ている。
その、眠たげに閉じ掛けたエメラルド色の瞳に、ゆっくりと微笑む俺が映り込んだ。
「今回は忙しかったんだ。そうだな……次の、次くらいには、一緒に来れるよ」
「つぎの……つぎ?」
「そうそう」
頷いて、もうすぐさ、と囁けば、レイカが嬉しそうに笑う。
眠たげな彼女の肩を、毛布ごしに柔らかく叩いた。
「おやすみ……レイカ」
おやすみなさい、と幼い声が返ってすぐに、穏やかな寝息が聞こえ出した。
それを聞きながら、肩を叩くことを止め、そして自分の掌を見詰める。
浅黒い、まだ幼さの残った小さな掌。
何も掴む事など出来ない手。
これがただの凶器なのだと言うことを、俺は知っている。
拳を握って、それから、俺はゆっくりと起き上がった。
レイカは一緒に眠って欲しいと言うけれど、まだ一緒に眠った事は無い。
俺の寝床は、レイカの寝室の隣りにある、リビングのソファだ。
ベッドを降りて立ち上がり、レイカの眠る寝室を出る。
早く眠ってしまおう、とは思うけれど、まだ眠くなかった。
「……散歩にでも、行くかな」
ぽつりと呟く。
少し夜風にでも当たれば、眠気もやってくるだろう。
俺の足は、ゆっくりと、家を出るために動いた。
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毎日毎日
それは 悪夢となって現れる
紅の花びらみたいな 飛沫