精霊シリーズ
□無欲拒奪
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俺達は、二人きりだった。
ずっと、暗がりで、鏡を見るように一緒にいた。
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「……よぉ、生きてるか?」
声を掛けながら出窓に腰掛けて、縄梯子を回収する。
「……何とか、なぁ……」
答えたそいつは、どうやら縄梯子を投げて力尽きたらしく、ぐったりと窓の傍で床に伸びていた。
黒い髪を伸ばしたまま、ばらりと床に広げて、荒く息をついている。
弟の名前は、ヒョウセツと言う。
姿形は、色さえ除けばまるで鏡みたいに俺と同じだ。
俺とこいつが似ているんじゃない。ただ、俺達二人が、親父に似ているだけだ。
まあ、今は片方がぼろぼろに怪我をしているけれど。
俺は床に足を下ろし、ヒョウセツの傍に座って見下ろした。
「結構酷いな。昨日くらいか?」
「いや、一昨日……」
起き上がろうとするヒョウセツを押し止めて、その髪を掻き上げてみる。結構な大きさの痣だ。
白い肌に痛々しい程に刻まれた、その青い痣に眉が寄る。
ヒョウセツの体は、傷だらけだった。
『母親』からの、八つ当たりだ。
『どうして?! どうして同じじゃないの!?』
母さんの言葉を思い出す。
親父の傍に居ない時、この別宅に居る時、母さんは俺を呼んでは俺の髪を掴んだ。
たった一つ、親父と違う、母さんと同じ土色の髪を引っ張った。
『ねぇ……貴方の所為よ? どうしてそんな色の髪をしているの? どうしてあの人の色じゃないの?!』
涙に震えた、痛みを堪えた声が耳に甦る。
『どうして、私だけじゃないの?!』
殴られて。
撲たれて。
踏まれて。
引っ張られて。
抱き締められて。
『ねぇ……カルライ!!』
自分を、否定される。
「……なぁ」
ヒョウセツが、呻きながら仰向けになった。
俺は、ヒョウセツの顔を見る。
ヒョウセツは、腕で目を覆っていて。その腕もぼろぼろだった。
俺より数時間遅れて生まれた『弟』は、それだけに母親からの行為も厳しいものなのだろう。
比べた事など無いから分からないけれど。
「……何で、俺じゃ駄目なのかな……」
表情は見えなくて。
「……俺じゃ……」
それは、共通の問い。
ねぇ、母さん。俺は傍に居るよ?
「……仕方ないんだろ」
何度も何度も、自分に唱えた呪文を弟に唱える。
「母さん達は、母親じゃ、無いんだよ」