精霊シリーズ
□無与無奪
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小さな存在でしかない。
僕は。
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お腹が空いたので、ウテン様に貰ったキャンディを口に放り込んだ。
カラコロと口の中を転がるそれは甘い。
窓から見える空はまだ青かった。
きっと、まだまだ一日は長いに違いない。
僕は、自分の顔を左半分隠すようにして包帯を巻き、きつくきつく止めた。
決して解ける事の無いように。
それから部屋を出る。
外へ行こう。
もしかしたら何か奇跡が起こって、僕にだって幸せは訪れるかも知れないから。
廊下を歩いていたら、ウテン様が部屋から出てきたところに重なった。
「おや、チノ。出掛けるのかい?」
綺麗な声を追って、僕は顔を上げる。
中央の分け目から左右に金色と黒に別れた、あまり長くない髪。
月みたいに輝く銀の双眸。
銀色の、瞳。
僕は目を逸らし、頷いて、ぶつからないように気を付けながら駆け出した。
どうして?
ウテン様、どうして。
どうして、そんな目をするの。
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小さな、小さな。
それなら、いっそのこと、
誰の目にも止まらない存在であれば良かった。