精霊シリーズ

□WEB拍手集
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+++ 無与無奪 枝道 +++



 彼女は良い人というやつだ。


「君の愛情表現は変わってるよ」


 ため息すら吐いて、僕は肩をすくめて見せた。

 そうか? と首を傾げて、髪を左右で金と黒に染め分けた彼女はカップに口を付ける。


「そうさ。そうでなかったら、なんで」


 言葉を紡ぎながら、僕は口元まで運んでいたカップをゆっくりと下ろす。


「なんでこの中には薬物が入ってるんだい」


「お前はやっぱり気付くな。安心しろセイクウ、毒じゃあない」


 自慢げに言って、彼女は微笑んだ。

 この笑みが曲者なんだ、といつもながらに思う。

 悪いことをしている自覚が無いんだから。


「ただ、新しい薬を作ったから実験体になってもらおうと思ってだな」


「だからね、せめて入れる前に言って欲しいって、僕もヒョウガキもカルライも言ってるだろう?」


「言ったら断るじゃないか」


「……この薬、何なんだい」


「小さくなる薬」


「そりゃあ断るよ」


 至極簡単に、今日の夕飯のメニューを答えるように言い放つ彼女に、頭痛がしてくる。

 しかし、頭を抱えるわけには行かない。

 頭痛に効くからと何か薬を飲まされかねない。


「大丈夫、植物には成功している」


「……いろいろと間が抜けてるよ。実験段階の」


 植物からすぐに成人男性へ移行するなんて、聞いたことも無い。


「まったく、チノにはこんなことしてないだろうね?」


 少し不安になって言うと、立ち上がった彼女の手刀が額を打った。痛い。


「なんて失礼なことを言うんだ。私は立派なお母さんだぞ」


「……結婚もしてないのに、子供を預かるなんて」


「いいじゃないか。チノは可愛い」


「そうだけどね……包帯はとってあげようよ」


「そのうちな。今は、嫌がる」


 少し悲しそうに微笑んで、彼女は囁く。


「自分の額と頬を隠してるんだ」


「そう……」


 子供の自己防衛なのだろう。

 僕は、小さなチノを思い出した。

 あの子に起きた悲劇に近い奇跡も。


「……さて、セイクウ」


 彼女が言う。僕は顔を上げて、誰もが異端だと叫んだ小さな子供を引き取った女性を見上げた。

 彼女は良い人というやつだ。


「ちゃんと紅茶は飲んで行けよ?」


「飲まないから」






 これさえなければ。



+++終わり+++
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