ギフト

□じぶんをしらない、おろかなけんじゃのはなし
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 彼はふと眠りから浮上する。

 穏やかに目覚めていく意識の中で、彼は世界が滅びたのだろうと認識した。

 彼が眠りから目覚めるまでの間に、いつだって世界は滅びている。

 そうして、滅びてからが彼の出番だった。

 彼はゆっくりと目を開いた。

 目覚めた先は、彼が眠る直前に見たのと全く同じ部屋。

 僅かに広いだけの四角い部屋に、出入り口が一つと、彼が座る椅子が一つ。

 それから、世界を見つめるための水晶が一つ、そして所用を済ませるための隣室へ繋がる通路が一つ。

 彼は、寝台の代わりにしていた背もたれの緩やかな椅子に座ったまま、ゆっくりとその手を動かす。

 すると、部屋の一角に生えた水晶が輝き、彼が望む風景を映し出した。

 それは、今の地上の光景だ。

 赤く染まった空と雲、そして草木の全てが枯れ、全ての命が死に絶えた砂の大地。

 幾度となく見てきた世界に、彼は溜息を吐いた。

 幾度となく見た、そして分かっていた光景なのに、彼の胸中は落胆を象っているようだった。

 それから、音も立てずに立ち上がる。

 彼はゆっくりと歩き出した。目指す場所はもちろん地上。それが彼の役目だからだ。

 部屋を出掛けた彼は、ふと思い出したように足を止め、部屋の中へと囁いた。


「行ってきます」


 彼がそう呟いても、誰も居ない部屋からの返事など無かった。







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