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□くじら少女
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空は、蒼い。
そして降り注ぐ陽光が痛い。
砂まみれの地表を、俺は歩いた。
どうか、こいつを殺さないでくれ。
願いながら、ずり下がっていたそれを抱え直して。
俺は歩いた。
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荒れた大地に降り積もった砂と瓦礫ばかりの地平線を、俺はぼんやりと見つめていた。
空からは肌を突き刺すような陽光が降り注いでいて、ぼろぼろの布切れを日除けに羽織ってどうにか火傷を防ぐ。
気温は既に体温を超えている。
数年前から、それがここでの平均だった。
数年前。起きたのは第四次の世界大戦。
核の弾頭が飛び交った丸いこの惑星は、停戦協議が行われる頃には半分が砂になっていた。
残りは草も育てない枯れた大地と岩山、そして水温も高く毒に染まった海。
それだけだ。
第三次世界大戦の時点で何処の国もある程度この状態を予想していたらしく、殆どの国は今、地下のシェルター内にある。
白血病の特効薬も出来たが、自分に害しかもたらさない外へと出てくるのは、馬鹿か物好きだけになった。
そして、恐らく馬鹿よりは物好きに分類される類の俺は、毎日、こうしてぼろ切れを羽織ってここに座っていた。
あまりの暑さに汗がだらだらと流れて、大地に照り返される日光の強さに眼を開けていることも難しい。
それでも、俺は太陽に熱されたコンクリートに座ってただひたすら地平線を見つめていた。
あんまり眩しくて、空の色さえ確認できない。
「……お兄さん、何やってるの?」
ふと、声が掛かった。
暑さから来る幻聴だろうか。
いよいよ死ぬのだろうか。
ぼんやりとした思考でそんなことを考えながら、俺はその声がしただろう辺りを見る。
立っていたのは、少女だった。
この気温と紫外線の中、上から布を羽織ることもなく、ただ白い腕を肩まで晒すような布地の少ない服を着た彼女は、深い蒼の瞳を黒い髪の狭間から覗かせて微笑んでいた。
可愛いと言える顔立ちだが、その額から鼻までを縦に走る長く古い傷跡が、そう言わせることを阻んだ。
「……誰だ?」
自分の声さえもぼんやりと響く。
彼女は屈み、俺の目線に合う高さまで顔を下げてから答えた。
「あたし? くじら」
奇妙な回答だ。
どうやら彼女は、馬鹿と物好きの内の前者の方らしい。
まあ、日除けの布も被らぬのだし仕方ない。
黙って見つめていると、彼女はまた訊いてきた。
「で、お兄さんは何やってるの?」
「俺?」
「うん」
少女の手が伸びて、俺の肩を掴む。
見た目よりも強い力が、俺を立ち上がらせた。
立ち上がってみると、彼女が俺の肩程度の背丈しか無いのが分かった。
「だって、ここ、何も無いでしょう?」
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