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□真夏の襲来者
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 アスファルトが溶けてしまいそうな気温の午後。

 空から降り注ぐ太陽からの光が雲も無い青空ごと全てを白く染めて、影の中にいてもじわりと汗が滲んでくる。

 ハヤトは、影の中に入っているベンチに座って、あまりの暑さに無人になっている公園をぼんやりと眺めていた。

 朝方は耳を塞ぎたくなる程に響いていた蝉の声も、あまりにも高い気温のせいでか静まってしまっている。


「……暑……」


 小さく呟いて、首筋に流れた汗を袖で拭う。

 力の抜けた手で、持った帽子を団扇代わりにしてみる。

 温い風しか起きない。

 どうしてこんな真昼にハヤトが外に出ているかと言えば、クーラーの効いた部屋から母親に追い出されたからだった。


『夏休みだからってだらだらしてないで、散歩でもしてらっしゃい!』


 そんな風に言って、ハヤトの母親は毎日、大体昼前にハヤトを家から追い出すのだ。

 初めの頃は図書館やコンビニに涼みに行っていたが、ハヤトの家からはどちらも遠い。

 辿り着くまでに汗まみれになってしまって、周囲の人間にいやな顔をされる。

 そう神経の太くないハヤトは、早々にその作戦を諦めた。

 かと言って馬鹿正直に散歩なんてしていたら熱中症になってしまう。

 仕方なくハヤトは、こうして近場の公園の木陰で無為に時間を過ごしているのだった。


「あー……暑い……」


 何度目かもしれない呟きをして、ハヤトは木製のベンチにもたれる。

 ほんのり温いベンチに手を乗せて、帽子を自分の横に置いた。

 まったく、無為な時間だ。

 ハヤトは思う。

 一昨日も昨日も今日も、何の意味もなく日々を過ごしている。

 元々、学校生活が夏休みに入ったからといって、ハヤトの生活には何の変化も無い。

 せいぜい少し寝坊が出来るようになったくらいだ。

 ため息を吐いて、ハヤトはまた帽子で自分を扇いだ。

 日差しが眩しいので目を閉じて、ついでのように最近あった出来事を思い出してみる。

 一昨日は、この暑い最中迷っているらしい人に道を訊かれた。

 昨日は、ようやく涼しくなった帰り道に友達と逸れた女の子に会った。

 変わった事柄と言ったら、それだけだ。

 まったく、あまりにも平坦な日々。

 一生こうなのだろうと、漠然と思って体から力が抜ける。

 暑いからか、疲れた。

 汗をかいているから喉も乾いた。

 何か飲み物でも買おう、そう思いながらハヤトは目を開けた。


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