精霊シリーズ
□ぼくは、てをのばした。
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出来ることなら許して欲しかった
でも俺に償えることなど何があるだろう
奪った物は戻らない
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「……っ!」
真っ暗な闇の中で首を締め上げられる、酷く嫌な夢を見て飛び起きた。
どきどきと心臓が五月蠅くて眉が寄る。
目覚めた先は自分のベッドの上で、窓の外は明るい。
もう昼時を過ぎる。どうして俺は寝ているのだっけ。
少し考えて、昼寝をしていたのだと思い出した。
「……っ……夢、だよな……」
締め上げられた首の感触がまだ残っているようで、恐る恐る首をさすった。
恐い夢だった。
うなされていたんじゃないだろうか。
思いながらベッドを降りて、寝汗を吸ったシャツを脱ぎ捨てる。ひとまずは着替えて、それから部屋を出た。
階下からは食事を支度する物音が聞こえる。
覗くと、台所でおかあさんが昼食を作っていた。
父さんはまだ戻ってきて居ないらしい。
良かった、と一息吐き、階段を下りきる。
その物音で気がついたのか、おかあさんが振り向いた。
「あら、モクカちゃん、おはよう。もうすぐご飯出来るからね」
微笑みながらの言葉に頷いて、それから、テーブルの上に食事がまだ用意されていないのを確認する。
「……ちょっと、外に出てくるよ」
目が覚めるように散歩してくる、と告げると、ちゃんとご飯食べに戻ってきなさいね、と、優しげな声で言われた。
頷いて答えて、俺は外へと出る。
父さんが仕事先から戻って昼食を摂る間、何処かで時間を潰してこよう。
せめてあの人が、俺を見ることなく楽しく食事出来るように。
それは、俺の日課だった。
森の中に出来た小道をゆうゆうと歩いて、空を見上げる。
空は腹立たしいほどに真っ青だ。
森の中の綺麗な空気を、胸一杯に吸い込む。
木々の枝を潜って小川を飛び越えて、凹凸のある獣道を、俺は歩いていく。
淡々と進むその足を、ふと何かが呼び止めた。
「……ん?」
振り向いても見回しても、誰も居ない。
けれど、その何かは確かに、俺を呼んでいる。
「……なんだ?」
声じゃない。
何かの気配が、俺を何処かへ連れて行こうとしているみたいだ。
まぁ、時間潰しくらいにはなるだろう。
俺は、その誘いに従って進む方角を変えた。まだ整地されていない草むらや茂みの間を、ずかずかと進む。
一応、俺が樹の精霊だからか、枝達は俺のことを避けてくれた。