精霊シリーズ

□贖罪の瞳
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 一体、何の冗談だと言うんだ。




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「おめでとうございます、スイキ様!」


 ある日、目が覚めた瞬間に、私を起こしに来た使い女が突然祝いの言葉を述べた。

 そうして、目を瞬かせている私の前から、軽やかな足取りで部屋を出ていく。

 一体なんだと言うんだ?

 戸惑いながらそれを見送っていた私は、使い女の足音が聞えなくなってから、まさか、と思いついて寝台を降り、部屋に置かれている姿見の前に向かった。

 左右の違う私の姿を丁寧に反射するガラスの前に佇み、じっと見詰める。

 そこには、何も出来なかった無力な子供が立っていた。


「……!」


 そして、その両の耳の色が赤かった。

 それがどういう事なのかを、瞬時に理解する。

 私は、水の精霊だ。

 純粋な水の精霊というのは精霊の中でも特異な存在で、ある一定の時期までは両性体だ。

 数日間耳を赤く染め始めると性分化が始まり、そして性別が決まった時、初めて一人前と言われている。

 私の体は、的確に時を刻んでいるのだ。

 耳に触れて、更にじっくりと、鏡の中に佇む子供を見詰めた。


「……どうした、スイキ……」


 小さな声で、まるでそこに誰か居るように、そっと呟く。

 音無く口が動く、姿見に反射された子供の瞳が、私を反射している。


「全然、嬉しそうじゃないな」


 笑いを込めた声は本当に小さくて、骨を伝って私に届いただけだった。

 昔、私は早く大人になりたかったのだから、本来なら大喜びをしているだろうに。

 それと真逆の心を込めた瞳のまま、私はただ一人、鏡の前に立ち尽くしていた。




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 この身が生きているなんて。


 こんな愚かな私が、生き続けるなんて。





 これは一体何の冗談だ?
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