精霊シリーズ
□求罰望罰
1ページ/5ページ
罪も、罰をも、与えてくれないのならば。
せめて、どうか。
+++
幅が掌を余る厚みの本を漸く読み終え、その本を音を立てて閉じながら、私は伸びをした。
ぎしりと、緩やかな背もたれのある椅子が軋む。
そして、本を持って椅子から立ち、本棚へと本を返した。
両手で持たなくては運べないこの本は、最も上の棚にあった物だ。
私の為にと用意された踏み台を登り、背伸びをして、どうにか本を元の場所へ戻す。
早く、父様のように大きくなりたい。
私は、自分の小さな手を見ながら切実にそう思った。
指の間に水かきを張ったこの手は、まだあの人の半分程度しかない。
ここは、水の系統の精霊を束ねる、<王>の一人<氷王>の館。
<氷王>とはつまり、私の父様であるヒョウガキ様の事だ。
私は、その第一子にあたる。
まだ、息子でも娘でもない。
純粋な水の精霊というのは精霊の中でも特異な存在で、ある一定の時期までは両性体だ。
数日間耳を赤く染め始めると性分化が始まり、そして性別が決まった時、初めて一人前と言われている。
私はまだ半人前の両性体で、未だ耳の赤くなる様子は無い。
でも、もうすぐだ。思いながら、魚のひれに似た長い耳を撫でる。
きっと、ずっと息子のように扱われているから、私は男になるのだろう。
「……さて、と」
私は踏み台を降り、自由に読んで良いとされている父様の本棚を物色した。
けれど、手が届く範囲から手当たり次第に読んだので、めぼしい物はもう読み尽くしている。
だから、私は父様の机に目を向けた。
机の上に、大きな本があった。
机の物には手を触れてはいけないと、きつく言われている。
しかし、そこには本があった。
そして、開いていた。
近寄り、本を覗き込む。
「水の、龍の、呼び方」
声に出して、書面の大きな項目を見る。
これは父様の魔術書だ。
私は目を輝かせた。
慌てて、同じ部屋にある己の机から、書き写す為に紙とペンを持って戻る。
机の上にある物に触れなければ問題は無いだろう。
水の龍。
大丈夫だ。
出来るに決まっている。
「そうだ、ヨウスイにも見せよう」
私は、書き写し終えてからふときょうだいの顔を思い浮かべて呟いた。
一人でやってしまうより、証人が居た方が良い。
だから、私より年下の、穏やかな微笑を浮かべるきょうだいの前でやろうと。
そう決めて、部屋を出た。
大丈夫。
絶対出来る。
それは、奇妙なまでの、自信。
+++
どうか、誰か。
あの時の私を殺してしまって。