精霊シリーズ

□求罰望罰
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 罪も、罰をも、与えてくれないのならば。

 せめて、どうか。



+++



 幅が掌を余る厚みの本を漸く読み終え、その本を音を立てて閉じながら、私は伸びをした。

 ぎしりと、緩やかな背もたれのある椅子が軋む。

 そして、本を持って椅子から立ち、本棚へと本を返した。

 両手で持たなくては運べないこの本は、最も上の棚にあった物だ。

 私の為にと用意された踏み台を登り、背伸びをして、どうにか本を元の場所へ戻す。

 早く、父様のように大きくなりたい。

 私は、自分の小さな手を見ながら切実にそう思った。

 指の間に水かきを張ったこの手は、まだあの人の半分程度しかない。

 ここは、水の系統の精霊を束ねる、<王>の一人<氷王>の館。

 <氷王>とはつまり、私の父様であるヒョウガキ様の事だ。

 私は、その第一子にあたる。

 まだ、息子でも娘でもない。

 純粋な水の精霊というのは精霊の中でも特異な存在で、ある一定の時期までは両性体だ。

 数日間耳を赤く染め始めると性分化が始まり、そして性別が決まった時、初めて一人前と言われている。

 私はまだ半人前の両性体で、未だ耳の赤くなる様子は無い。

 でも、もうすぐだ。思いながら、魚のひれに似た長い耳を撫でる。

 きっと、ずっと息子のように扱われているから、私は男になるのだろう。


「……さて、と」


 私は踏み台を降り、自由に読んで良いとされている父様の本棚を物色した。

 けれど、手が届く範囲から手当たり次第に読んだので、めぼしい物はもう読み尽くしている。

 だから、私は父様の机に目を向けた。

 机の上に、大きな本があった。

 机の物には手を触れてはいけないと、きつく言われている。

 しかし、そこには本があった。

 そして、開いていた。

 近寄り、本を覗き込む。


「水の、龍の、呼び方」


 声に出して、書面の大きな項目を見る。

 これは父様の魔術書だ。

 私は目を輝かせた。

 慌てて、同じ部屋にある己の机から、書き写す為に紙とペンを持って戻る。

 机の上にある物に触れなければ問題は無いだろう。

 水の龍。

 大丈夫だ。

 出来るに決まっている。


「そうだ、ヨウスイにも見せよう」


 私は、書き写し終えてからふときょうだいの顔を思い浮かべて呟いた。

 一人でやってしまうより、証人が居た方が良い。

 だから、私より年下の、穏やかな微笑を浮かべるきょうだいの前でやろうと。

 そう決めて、部屋を出た。

 大丈夫。

 絶対出来る。


 それは、奇妙なまでの、自信。



+++



 どうか、誰か。

 あの時の私を殺してしまって。


 
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