精霊シリーズ
□無能な手
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無くした記憶がこの手に帰ることはなく
いくらか不安でも 気になりはしなかった
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俺は、毎日毎日、似たような夢を繰り返し見ている。
それは、ルーズ・キャールではないどこか別の世界の夢。
どうしてそう言い切れるのかと言えば、明るい太陽が照らした大地に、たくさんの花が咲いているからだ。
ルーズ・キャールでは、そもそも太陽が雲を隔てずに大地を照らすことがない。
だから、そこはルーズ・キャールではなくて。
幸せで静かな、時間が流れていた。
俺にはきょうだいが九人いた。
優しかったり子供みたいだったり、怖かったり強かったり穏やかだったりする、きょうだいがいた。
それは、幸せな夢だった。
世界が壊れるまで。
真っ赤に染まって、何もかもが死んで、全てが終わり始めるその瞬間まで。
そして、その怖ろしい赤さに驚いて跳び起きる。それから夢を思い出しても、それが本当だったのかどうかが分からない。
ただの夢で妄想だったのか、それとも本当にその世界はあって、俺はそこにいたのだろうか。
あの世界は、創主様の最初の世界だったんじゃないかと、俺は思っている。
けれどそれは俺の考えで、だから妄想だと言われても証拠がないから否定できない。
だって、俺は現実でその世界を見たことがないのだ。
あんな世界に、行った事なんて無い。
けれど、あれは本当にあったのだと、頭のどこかが必死に叫んでいた。
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