精霊シリーズ

□全捧与罰 
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 俺だったら、良かったのに。



+++



 夕飯を終えてから、ふと思い立って俺は家を抜け出した。

 遅くから外出すると止められるから、こっそりと部屋の窓から。

 走り出して、もう真っ暗な森の中を進む。木々は俺を避けたから、転ぶことは無く。

 日頃走り回って鍛えている肺が、ふいごの様な呼吸しか出来なくなるまで走ると、ようやく、目的地に着くことが出来た。

 そこは、森の奥深くにある小さな泉。

 木々が円形に作り上げ、今は月光を反射している。

 大きく息をしながら、俺はようやく走りを歩みに変えて、その泉に近付く。

 冷たそうな水を湛えた、深い泉が俺を反射して映した。

 それに、ゆっくりとかがみこみ、顔を近付ける。

 冷たい泉。

 深くて、暗い、泉。

 この奥には小さな次元の裂け目が出来て、俺はいつもここからレイカの傍へと行っていた。

 今は、もちろんそんな道は無いけれど。

 顔を、水に浸す。

 冷たい。

 一度上体を起こしてから、俺は、冷たい水へと服のまま飛び込んだ。

 しぶきの上がる音がする。

 俺は泳がず、ただ体の力を抜いて浮いたまま、泉の底を見つめた。

 空からの月光も届かない位に深い、底へと目を凝らす。

 ここからしか、誰も、行くことは出来ない。

 一番レイカに近い場所。

 ここにいれば、少しは、満たされる気がした。

 だから、息の続く限り漂っていようと決めて、俺は目を閉じた。



+++



 こんな冷たさなんて、なんてことはない

 こんな苦しさなんて、なんてことはない

 寂しさに比べたなら

 辛さに比べたのなら





 ああ、俺だったらよかったのに




 
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