精霊シリーズ

□拒位逃亡
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 せっかく兄上が手を繋いでくれたのに、効果は無く。

 いつもと同じ真っ赤な夢を見て、俺は跳び起きた。

 起きてすぐ見るのは、隣り。

 一緒に眠っていた兄上が、同じ夢を見てしまってうなされたりしていないかどうか、だ。

 少しの間窺ってみても、うなされたり起きたりする様子はない。


「……良かった……」


 小さく、呟いた。せっかく気持ちよさそうに眠っているのに、起こしてしまったら可哀想だ。

 それから、もう一度ベッドへ転がる。

 捲ってしまった毛布を、肩まで被った。兄上にも同じようにして、それから天井を見上げる。

 天井は、いつも通りの姿でそこにあった。

 真っ赤な夢を見るのは、いつものことだ。

 最初は穏やかで幸せで、最後は悲しくて寂しくて辛くて真っ赤になる。

 見たこともない世界の夢。

 『俺』を入れて十人のきょうだいが生きている世界。

 あれは、一体何なのだろうか。

 考えながら強く目を閉じてみて、眠気がもう戻ってこないことを確認してから、のろのろと起き上がる。

 もう眠れないなら、書庫へ行こう。

 そう決めて、着替えも顔を洗いもせずに、そのまま足を書庫へ向けた。

 俺は、あの真っ赤な夢の中にいた『俺』よりも、遙かに子供で。

 だから、自分の行動がどれだけ浅はかだったかなんて、すぐには気付けなかった。






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