奥州・平家
□不言実行
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空気がしんと澄んで、気持ちのいい朝。
わずかな肌寒さに早起きをしてしまった望美は、散歩がてら知盛の家を訪なっていた。
「おはよ、知盛っ…と」
返事を期待したことはない。
大概自分が訪なうときは、リビングで寝ているか寝室で寝ているか……まぁ、8割方は寝ているからだ。
だが、今日に限ってその予想は大きく裏切られて。
「あぁ……早いな」
そう言ってリビングから姿を見せた知盛に、望美は双眸を零れんばかりに見開いた。
「とも、もり?」
「なんだ」
「どんな風の吹き回し?」
「何が」
「その格好……」
思わず礼を忘れて指さしてしまった。
上下ともにジャージ姿。首元や半袖や膝丈のズボンから覗く素肌はしっとりと汗ばんでいて、運動後特有の熱を帯びている。
望美の視線を受けた知盛は、大した感慨もなさそうに肩を竦めた。
「俺が運動していたことがそんなに珍しいか?」
「うん」
間髪いれず即答した望美の反応があまりに馬鹿正直で、知盛は思わず口元を弛めた。
「クッ……大したことでもなかろう。偶には動かないと、鈍る」
特にこちらの世界に来てからは、自らの足で長距離を行くことも駆けることも減った。まして剣を振る機会なら尚更。
「これから走りに行くが。来るか?」
「え、今から?!」
「替えの服なら貸してやる。あぁそれとも、」
にやり、と、口元にからかいともとれる不敵な笑みが浮かぶ。
「激しい運動なら、俺の下でするか?」
「―――っっっ!!!」
ぎゅん、と望美の顔が一瞬にして真っ赤に染まる。
今にも叫び出しそうな望美を見て愉快そうに笑うと、知盛は望美の横を通り過ぎて玄関へと足を向けた。
「逃げるなよ……身体を鈍らせたくはないだろう……?」
去り際にそう言われた瞬間、望美はとうとう知盛の背に向かって叫んでいた。
「知盛の馬鹿ぁぁっ!」
挑発されて、望美が挑まないわけがない。
それを見越されていいように操られた気がして、悔しいやら……恥ずかしいやら。
以来、望美は知盛の家に必ずスポーツウェアとシューズの一式を置かせてもらうようになったという……。
END
怠惰キャラなのに筋肉質ブラボーなチモ。
何気にトレーニングぐらいはしてそう、と思ってこんな話に。
こだわりは膝丈ズボン姿の知盛です。これは譲れない。(何)
あ…最後発言がエロ化しましたが、……みなさま、だ、大丈夫でしたか(汗)
20081014