奥州・平家
□余所見は禁止
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リビングの戸を開けるのとほぼ同時に、視界の隅で望美が物置棚をぱたんと閉めるのが見えた。
「只今……」
「お帰り、知盛っ」
望美は小走りで近づくと、ちらり、となにかを期待するような眼差しで知盛を見上げた。
こんな表情をするのはなにかをねだる時だと、知盛は経験から学んでいる。
「……ね、知盛」
「なんだ」
「もし……もし、私が知盛みたいにほんとは違う世界から来た人間で、知盛は私を護るために一緒にやってきた従者だったりしたら……どうする?」
「………」
知盛はちらり、と望美が弄っていた棚を見やった。
……成る程、そういうこと……か?
「どうもしやしないさ。お前が俺を求める限り、俺はお前の傍にいるだけだ」
思った通りに言ってやったのに、意外にも望美は僅かに疑いの眼差しを見せる。
「ほんとぉ?知盛が従者なんて」
「無理だとお思いか……?」
「うん」
きっぱりと頷く望美に、迷いは欠片も見あたらない。
信用がないと思いつつも、事実誰かの従者となって豆豆しく働くことなんて自分でも考えられないから、多分望美の考えは当たっているのだろう。
くつり、と喉の奥でひとつ笑うと、知盛は身を屈めて紫水晶の双眸を望美の視線の高さに合わせた。
艶やかな眼差しが、望美の視線を絡めとる。
「安心しろよ……そんな仮定などなくても、俺はお前から離れはしないさ」
「っ!」
「虚構もいいが、俺はここにいるぜ……余所見、してるなよ?望美」
「……バレてた?」
「当然だ」
紫苑の髪を梳き、耳元に向かって忘れられないように静かに妖しく囁いて。
「俺だけが、お前を満たしてやれるんだぜ……?」
腰を抱いて引き寄せれば、小さく声をあげるもののされるがままになっている。
――離しはしない。
新しいオモチャに手が伸びないほどに、俺がお前を愛してやるから……な。
END
遙か4発売記念SS。
4(?)を買っちゃった望美ちゃんと、やらせまいとする3代表知盛でした(笑)
20080620