奥州・平家

□It's my own
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It's my Own
【知盛】



淡い光が身体を包んだ、…そんな感覚を覚えている。


次に視界が開けたとき、望美はそこがどこだか分からなかった。

(……夢?)

夢か現か、鎌倉か京か。

全てが判然としない状況の中で、その声だけはやけにはっきりと聞こえた。


「ほう……源氏の神子殿、か」


「…っ、知盛!?」


白い光の中、漆黒の衣を身に纏い佇む知盛は酷く異質なものに見えた。

だが、銀糸の髪、紫水晶の如き澄んだ双眸、そして倦怠感漂うその声。


間違いようもなかった。

出会う度斬り結び、死という結末に追いやり続けている男、平知盛。




変えられない運命の、



…象徴のような、男。




「神子殿が、俺を呼び寄せたのかな…?」

「わから、ない…。私も気づいたらここに」


正直に言うと、知盛は愉し気に肩を揺らした。



「クッ…神子殿らしくない、迷い子のような目だな」

「私だって…いつも強いわけじゃないよ」

「そうか…?ならば、」

すらりと抜かれる刃は双刀。一体何処に持っていたのかと望美が目を見張っている間にも、知盛は一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。



「俺が、お前を強くしてやろうか…」


――来る。


そう思った瞬間、望美はとっさに知盛の刃を受けていた。

刃を止めるのは、いつの間にか手にしていた己の剣。



鋭い剣戟が、耳に響く。


「あぁ…その目だ」

恍惚とした声は、艶やかな色を以て望美の躯に触れていく。

「知盛、何を…」

「冷たく研ぎ澄まされた獣の目だ。…お前には、その瞳、その強さこそが相応しい」


肩を揺らし、くつくつと笑いを零しながらも、紫の双眸は爛々と輝いて望美の視線を離さない。

「俺だけがお前のその瞳を見る。お前がその眼差しを持つ限り、俺はお前に酔い続ける…」



望美が知盛の刀を弾く。



再び間をおいて対峙すると、知盛はふんと鼻を鳴らした。

「迷い子の色が消えたな。」

「…貴方の前で、迷ってはいられないから」


「クッ…そうだ。迷うな。俺だけを見ていろ。余所見をすれば……次はない」



ぎし、と望美の身体が厭な音をたてて軋んだ。



(束縛…っ)



口の端を吊り上げて、知盛はゆったりと間合いを詰めた。

だが、あと一歩で望美に触れられるというところまで来て。




知盛の足が止まった。



「…残念…」

本心かどうか、ともかくぽつりと呟いた声だけが耳に残る。

「……時間切れ、か」

望美に向かって差し出された手は、淡く光に透けていて。


望美は思わず息をのんだ。


「知盛、その手…!」

「あぁ…現実に還るんだろうさ。お前との逢瀬も終わりだ…」



なかなかに愉しかったぜ、と笑うその表情は、嘘には見えなくて。




「俺と遭うまで、他の奴に殺されるなよ…?」




動けないまま、知盛に優しい仕草で撫でられた頬が、燃えるように熱い。





「お前は…俺の物だ」








その言葉を最後に知盛の姿は掻き消えて。





刹那の逢瀬に、何故だか無性に泣きたくなった。








END










隠し?知盛EDでした…

歩く18禁の異名に負けないように(?)、他の方々のEDより艶度を増してみたのですが…如何だったでしょうか。


2008.03.14
「あなたに遭いたくて」
知盛ルートより

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