景時・譲
□ただ貴女を想う
1ページ/1ページ
20.ただ貴女を想う
【譲】
望美が弓道部へ向かったのは、そこになら彼がいるかもしれないと、漠然とした確信を持っていたからだ。
果たして、弓道場の外から耳を澄ませると、ピンと張りつめた空気のなかで矢の射られる気配がする。
邪魔をしてもいけないと、望美は外で気長に稽古の終わりを待つことにした。
近くのベンチに腰掛けて、一息つく。
今日学校は休みだから、人気は殆どなかった。
とはいえ、私服で入り込んでも文句を言われないのは、望美が守衛と仲良しであるが故のお目こぼしだ。
暖かな日差しについ微睡んで、いつしか望美は眠りへと落ちていった。
***
「…い、先輩?」
躊躇うように微かな仕草で、自分を揺さぶるひとがいる。
ゆったりと眠りから覚め、瞼をあげると、真っ直ぐに自分をみつめる瞳と視線がぶつかった。
「…譲、くん?」
「どうしたんですかこんなところで。しかも私服で」
言われて、望美はやっと状況を思い出す。譲の稽古終わりを待とうと思って、そのまま寝てしまったのだ。
「おはよう、譲くん。あのね、」
そのことを告げると、
譲は一緒目を丸くした後に嬉しそうに微笑んだ。
心なしか、耳が赤い。
「有難うございます」
「稽古はもういいの?」
「はい。休みの日も鈍らないようにと思って。まさかこっちに戻ってきてからも必要になるとは思いませんでしたけど」
「確かに」
苦笑を浮かべているが、譲はそれを当然のことだと思っている。
それぐらいでもしなければ、望美を守れないことが分かっているのだ。
「ね、じゃあどこか遊びに行かない?折角のお休みだし」
気分転換に、と軽い気持ちで望美は誘うが、しかし予想に反して譲は眉間に皺を寄せた。
「先輩…折角の休みなんだから、休んでください。連日出掛けなければ行けなくて、疲れてるでしょう?」
「う―ん…確かに、疲れてないと言えば嘘になるけど…」
望美としては、譲と一緒の時間を過ごせればそれでいいと思っていた。
けれど、譲が心底自分を心配してくれているものだということも伝わってくる。
周りにお節介だ何だと言われるが、譲の発言は常に望美を考慮したものなのだ。
「…うん、じゃあ、大回りして帰ろう?」
「え?」
「家まで、割と直ぐに着いちゃうから。
ちょっとだけ遠回りしよう?そしたら、」
二人きりの時間が、ちょっぴり増えるから。
言外に意味を含めて。
悪戯っ子の目の輝きを譲に向けると、譲は溜め息をついた。
当然そのため息は、呆れが1%で99%は感嘆で出来ている。
「まったく、貴女は…」
「ダメかな?」
「いえ。いいですよ。それなら気分転換にも丁度いいでしょうし。」
「やった、」
「帰ったら、美味しいご飯作りますよ。バレンタインのお返しも兼ねて」
「ほんと!?お邪魔していいの?」
現在家計を圧迫する八葉の食費を案じて、望美だけは自宅にいる。
今離れてしまっているからこそ、その提案は嬉しくて。
「ええ。腕を奮います」
「じゃあ、買い出しして帰ろうっ!」
「わかりました」
嬉しそうに前を歩き始めた望美の背を、譲は愛しさをこめた眼差しで見つめた。
譲のさり気ないホワイトディのプレゼントは、望美を大いに喜ばせることになりそうだった。
END
譲EDでしたっ。
幼なじみは会話が弾むなぁ(*´∀`*)
八葉の中にいると影が薄くなるけども(爆)、何気に譲はお喋りだと思います。
2008.03.13