景時・譲

□俺を欺いて
1ページ/6ページ

嫌いな食べ物はなんですか?

そう問われて、俺は眉間に軽く皺を寄せた。





「行ってくるよ〜」

仕事に出ようと奥に声をかけると、ぱたぱたと可愛らしく走る姿が現れた。


望美ちゃん。


京に残って、俺と共に暮らす道を選んでくれた大切なひと。



普段は寝ぼけ眼で送り出してくれることが多いのだけれど、今日は珍しく目がさめているようだ。

食事の後片付けをしている手を休めてなのか、両手が濡れて宙をさまよっている。

「いってらっしゃい、景時さん。」

笑顔で見送られると、かえって出掛けようとする足がとまってしまう。

ついつい、その瞳に目がいってしまうから。

「なるべく早く帰るからね。朔もいるけど…大丈夫?」

「大丈夫ですよ。今日もお洗濯は終わっちゃっているし、家の片づけしたり買い物行ったりしてます」

「…うん」
そうじゃないんだけど、とは流石に言えない。


「今日は、料理も朔に教わって頑張りますね」


問題は、こっち。

キラキラ輝く笑顔で言われれば、頷くしかなくて。
それでも自分の顔がひきつらないよう、顔中の筋肉を総動員して笑顔を作った。

「あ、あの望美ちゃん…無理しなくていいから、ね?」

望美ちゃんが料理の苦手なことは、よく知っている。

本人もそのことを気にしているから、俺からそのことを言うわけはない。


その望美ちゃんが、今日は料理を作ってくれるという。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ