弁慶・ヒノエ

□その優しき手を
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15.その優しき手を
【弁慶】


望美は五条大橋へとやってきた。

貧しい者たちが、それでも必死に生きている土地…。


橋の欄干に背中を預け、空を見上げた。

真っ青に晴れ上がった空は、どこまでも高く遠く…この世界を包み込んでいる。



「望美さん?」

「え?」

自分を呼ぶ声に、望美は身体を起こす。

少し離れたところから、弁慶が驚いた表情で望美を見ていた。

「弁慶さん!」

「どうしたんですか?こんなところに…」

「えと、散歩で」

微笑む望美の元に、弁慶は歩み寄った。さらりと紫苑の髪を梳く様子があまりに自然で。

望美が気づいて頬を赤く染めるまでには、弁慶は手を離してふわりと甘い視線を望美に向けていた。

「1人で、ですか?」

「はい。今日はお休みの日でしょう?みんな思い思いに出かけてるから」

望美の無邪気な発言に、弁慶はわざとらしく愁眉を寄せる。

「君はいけない人ですね…。危険だとは考えなかったのですか?」

「あ。」

望美は、初めてそのことに思い当たったようで声をあげた。


1人で歩こうとすると、そのたび誰かが気遣って。


今日ぐらいは、と思ったのだが、かえって心配させてしまう可能性までは思い当たらなかったらしい。


「…すみません。ご心配を…って、まさか、探させちゃったんですか!?」

「いえ。会えたのは偶然ですよ。」


偶然も捨てたものじゃないな、と弁慶は微笑む。

「前にも、ここで仕事をしたのを覚えていますか?今日もそのために」

「ああ、薬師のお仕事ですね?」

「ええ」

「良かったら、また私、手伝ってもいいですか?」

「ふふっ、それは有り難いな。お願い出来ますか?」

「はい!」


弁慶の艶めいた笑みに、望美ははにかみながら頷いた。




「それに、せっかくこうして出会えたのだから、僕は君を離したくない」



次の一言で、すぐに望美の顔が朱に染まってしまったけれど。








日が西に傾きかけてきた、頃。

一通りの患者を診終えた弁慶と望美は、薬や器具の片付けに終始していた。

「弁慶さん、これは?」

「ああ、それはこちらに。それから、使っていない布をまとめてくださいますか?」

「はいっ」


望美には、薬のことはわからない。だから周りをうろうろするのが関の山だ。

弁慶も望美を感染力のある病気に近づけるわけがなく、雑多な仕事を任せることでさりげなく病人からは遠ざけた。


だが、弁慶に言わせると、今日はいつもより格段に、男性客が素直だったようで。

「ふふっ、君の魅力のおかげかな」

どことなく楽しそうな口調で言う弁慶に、望美は照れるほかない。


「さて…これで一段落かな。望美さん、そちらは?」

「終わりました!」

「ありがとう。では、帰りましょうか」

「はい」

人々の感謝の言葉を受けながら、弁慶は望美を伴って診療に使っていた小屋を後にした。




「今日はありがとうございました」

帰る道々、弁慶が望美に頭を下げる。

慌てて、望美は弁慶の身体を起こさせた。

「そんなっ、私こそお邪魔してしまって――」

「いいえ。君が居てくれたお陰で、診療所が華やぎましたし。何より僕が君と過ごす役得を得られました」

柔らかく微笑む。

「本当に君は、この世界の救いとなるのでしょうね…」


僕の罪の所為で、僕は君と出会えた。

僕の罪の所為で、君は普通の少女では居られなくなった。


幸せなこの時間は、君にとっては苦痛かもしれなくて。

でも…こうなってしまった以上、限りある時間を共に過ごしたい。

その笑顔を守り、傍で慈しみたい。



「弁慶さん?」

望美が不思議そうにのぞき込んできたから、弁慶は笑顔で内心を押し隠した。

「どうしたんですか?」

「つい、望美さんに見とれてしまいました」

「っ!」



僅かなこの時間を、君の幸せで彩れたら…





END









…かなり無理ある終わらせ方ですみませんっ!
かなり字数オーバーしてしまい…orz

弁慶さんは望美の存在自体に罪悪感を感じてる人なので…それを乗り越えて幸せになってほしいです!

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