弁慶・ヒノエ
□揺蘭
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〜揺藍〜
その日望美が出迎えたのは、にっこりと極上の笑顔を浮かべた家の主だった。
「弁慶さん…」
「はい?」
長い付き合いで、笑顔にも種類があるのだと望美は学んでいた。
そして、この笑顔は――
「なんか…怒ってます?」
「ええ」
あっさり即答されてやっぱり、と思うものの、望美にはその理由がさっぱり思い当たらない。
八つ当たりをする人ではないから、自分が怒らせたらしいことだけはわかるのだが。
望美が自分のしたことを反芻していると、苦笑混じりの声が降ってきた。
「いいんですよ。僕の、……単なる我が儘なのだから」
「え?」
望美の聞き返す声に、弁慶は首を振るばかりで答えない。
ただ望美を促して、玄関をきっちりと閉めた。