将臣・九郎
□指先の温度
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九郎×望美 拍手御礼SS
『指先の温度』
「九郎さ―ん?」
「ああ、今いく…が、本当に…いいのか?」
躊躇いがちな声が風呂場の向こうから聞こえてきて、望美はくすりと笑みを零す。
「別に一緒にお風呂入る訳じゃないんですから、そんなに照れなくても」
「照れてないっ!」
そうは言っても、洗面所の方から見せた顔が真っ赤では照れているのがバレバレなのだが、望美はからかうのはやめにして自分の前を指した。
「どうぞ、九郎さん。椅子に座ったら、浴槽の縁に頭を預けてください」
「ああ。では、頼む」
「はいっ」
にっこりと望美は微笑む。袖をまくって剥き出しになった繊手で、風呂場のシャワーを手に取った。
『しっかし、アンタのその髪鬱陶しいね』
ヒノエにそう言われたのがキッカケで、一悶着あったのがついさっき。
ならば丁寧に洗髪すれば少しは収まるのではないか、と面白半分で発言したのは将臣。
それに悪ノリするように、望美が洗髪役を買って出たのだ。
そして今、有川家の風呂場を借りて実行するまでに至っている。
きつい癖のついた髪が、水に濡れてしなりと浴槽いっぱいに広がる。まるで橙色の滝のようだと思
った。もしくは、アザラシの毛みたいなぺそりとした感じ…可愛い、といったら怒られそうだ。
九郎を見ればきつく目を閉じていて、眉間の皺が、彼の緊張を物語っている。
「九郎さん、楽にしてて大丈夫ですよ?目には入らないようにしますから」
むっつりした顔のまま小さく頷く様子は、幼子のようで微笑ましい。
「じゃあ、シャンプーしますね」
十分に髪を濡らしてから、シャンプーを泡立てて髪に指を通す。
柔らかい質感の髪に触れると、シャンプーのお陰もありふわふわとくすぐったかった。
頭皮をがしがしと櫛削るように洗って、一気にシャワーで流す。
ここからが大仕事だ。
「次、リンスしますね。九郎さんの髪色にあわせて、オレンジの匂いする奴ですよ―」
「匂い!?そんな女々しい――」
「お香みたいなものだから女々しくなんかありません!」
きっぱり言われてしまい、九郎は憮然としながらも口をとじる。
それに、今回の洗髪のためにリンスをわざわざ新調したのだ。九郎の髪の分量を考えれば当然のことだから、リンスの選択ぐらいは文句を言われる筋合いはないと思う。
たっぷりのリンスを手にとって、毛先から順に馴染ませる。
いつもは暴れん坊のように跳ねている髪も、濡れているおかげで大人しく手の中に収まった。
「顔の周りやりますから、動かないでくださいね―」
指先がそっと肌に触れる。髪の間を滑り、優しく、時に引かれるような感触。
すぐ間近に望美の存在を感じて、九郎は無意識にすり寄るように顔を寄せた。
「わっ、動かないでくださいっ」
慌てる様子まで、目を瞑っていても手に取るようにわかって。
今更ながら役得な立場にいることに気づき、小さく満足そうな吐息を漏らした。
「…気持ちいいな」
囁くように小さな声も、望美はちゃんときいてくれる。自慢気に微笑む顔がみえる気がした。
「でしょう?」
泡を流して、タオルで丁寧に髪を拭って。
ぽかぽか日溜まりの中で髪を乾かす間も、望美はかいがいしく九郎の世話をやいて。
家の中から、縁側の微笑ましい光景を見学する八葉が多かったとか…
END
「ぺそ」って髪の九郎さんが書きたかったんです…!!!!(爆)
「九郎×望美」というほどではないですが、二人ほのぼのしてればいいな、と思って。
九郎さん…普段の髪の手入れはどうしてるんだろう…(笑)
20080501
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