将臣・九郎
□未来への涙
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16.未来への涙
【九郎ED】
神泉苑へと足を踏み入れた望美は、桜の木の下で刀を振っている九郎の姿を遠くに認めた。
季節柄、桜の木は閑散としていて、花断ちが出来る筈もなく。
それでも無心に刀を振っている九郎には、まるで桜の花びらが見えているかのよう。
鮮やかな剣舞に、望美はただ見入っていた。
「…望美?」
だから、九郎が自分に気づき声をあげたとき、九郎に見とれていた望美はハッとして。
慌てて「はいっ」と返事をしながら、九郎のもとへと駆け寄っていった。
「どうした、1人か?」
「はい。…九郎さんは、お稽古ですか?」
「そうだ。武士たるもの、稽古を欠かすわけにはいかんからな。源氏の将としても、兄上に恥をかかすわけにはいかない」
ツキン…と、九郎のその言葉に、痛むものがある。
何度も時空跳躍をしてきた望美は、兄を崇拝するこの一途な男が、何度もその兄に傷つけられ、虐げられ、裏切られた様を目の当たりにしている。
だから、九郎が純粋に兄を慕う様子を見ると、望美はいつもいたたまれない気持ちになる。
…その想いは伝わらないのだと、訴えられればどれほど良いか。
そう言ったとして、九郎に伝わるはずもないのだけれど。
「…おい、のぞ…み」
「…っ、はい」
「何故…泣く?」
そう、と壊れ物に触れるかのような優しい仕草で、九郎がぎこちなく望美の目尻に指を滑らせる。
そうされて初めて、望美は自分が泣いていることに気がついた。
「!…っ、なんでもないんです…何でもっ…」
また、この時空でも、彼は傷つくのだろう。
そう思ったら知らず零れた、未来の運命への涙。
「なんでもなくて泣くことはないだろう」
困り果てた声、八の字に下がった眉。
女性の扱いに疎い九郎は、こういうときどうしたらいいかわからない。
でもそんな九郎の、ぶっきらぼうな優しさに包まれるのが嬉しいから。
望美は、九郎の衣服が濡れないように涙を拭ってから、その逞しい腕の中に飛び込むようにしてすり寄った。
「お、おい!?」
大慌てな声が、耳と触れ合った体から響いてくる。きっと今顔を見上げたら、耳まで真っ赤なのだろう。
「九郎さん…」
「な、なんだ」
「私がいます」
抱きついたまま言う望美に、九郎は離せと言うべきかわからない。
けれどその一言に強いものを感じて、瞬いた。
「何…」
「九郎さんがどれだけ辛いことに出会っても、私は傍にいます。離れません。だから、…1人で苦しまないで」
今の九郎には不必要かもしれない、けれど言っておきたかったメッセージ。
未来の九郎のために。
「ああ…」
意味がわからないままに、それでも純粋にその言葉は嬉しくて。
肯定の入った吐息を漏らすと、九郎は優しく望美の背を撫でてやった。
「…ありがとう、望美」
END
九郎EDでした。
シリアス苦手な方には申し訳ないです(>_<;)
プレイ中は九郎(というか源義経)の運命にあまり触れられませんが、彼は史実でもゲーム内でも必ず敬愛する頼朝に虐げられて。
そのことに、歴史が苦手な望美ちゃんでも(笑)時空跳躍をすることで気づいてほしい、彼の支えになってほしい、と思って書いた一作です。