パラレル
□日常回帰
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けぁ、という鳴き声と、辺りのものを吹き飛ばしてしまいそうな力強い羽音が厩の外に響きわたる。
反動をつけて勢い良く腕から鷹を飛び立たせた望美は、鷹に向かって餌の肉片を放り投げた。
ばさり、と巨大な翼が翻され、急降下したかと思うと違わず肉片をくわえとる。
名前の由来ともなった、白い斑模様の両翼をはばたかせ、鷹は厩の屋根にふわりと降りた。
「白雪、ごはんはもういいの?」
望美が尋ねると、白雪と呼ばれた鷹はけぁ、と一声甘えたように鳴いた。
「まるで、人の言葉を解しているようだな」
「九郎さん」
「おはよう。朝から元気だな、俺の姫将軍は」
「おはようございます。目が覚めちゃって」
「目覚めがお前とでなくて、寂しい思いをさせてくれるな?」
こつん、と額を小突かれ、望美は苦笑を浮かべた。
いつも余裕の態度で甘やかしてくるくせに、自分が置いてきぼりにされるとこうして拗ねたような態度を見せる。
そのギャップがなんとも憎めなくて……望美も九郎を甘やかしたくなってしまうのだ。
「ごめんなさい、先に起き出しちゃって」
「気持ちはわかるがな。――平和ボケしてしまいそうだ、こんなに穏やかな日々が続くと」
「はい。白雪も飛び回る機会が減ったから、運動不足かなと思って。……本当は、野生にかえしてあげるのが一番かもしれないんですけど」
「野に放つには、あまりに惜しい逸材だからな。なぁ、白雪?」
屋根の上から2人を見下ろす白雪は、自分の名にきゅる、と喉を鳴らし首を傾げる。
その愛くるしい姿に、2人から自然と笑みが零れた。
「そろそろ朝餉の支度も出来ていよう。おいで」
「はい」
「俺を置いて出掛けるのは、それからでも遅くないだろう?――尤も、置いてきぼりにされるつもりはないがな」
「一緒に出かけましょう。馬を駆って、紅葉を見に。――私たちが戦いで得たものを感じに」
「ああ。お前の思うままに」
九郎が差し出す手に、ちょっとだけ縋る。
重荷にはなりたくないけど、温もりを分かちあいたいから。
昇り始めた朝日を背に受け屋敷に入っていく2人を見送るように、白雪が一声高く鳴いた。
END
甘さも物語性もなく…(爆)
なんだかぼんやり/漠然とした雰囲気やらを感じてもらえれば嬉しいです。
20081117