パラレル
□日常回帰
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ひんやりとした寝具に目を覚ました九郎は、隣にあるはずの温もりがないことにむっと眉を顰めた。
望美の姿を求めて、のそりと布団を這い出る。
からりと障子をあけると、冷気がひんやりと頬を掠めていった。
釣瓶落としとはよく言うものだが、それは夕方の話。ぼんやりと白んでいく、初秋の茫漠とした朝の時間にこんなにものんびりしていていいのかと首を傾げ、それから自嘲気味に苦笑した。
(戦に慣れすぎた、か)
この戦国の世にあって、戦いは呼吸するのと同じくらい自然なこと。
九郎は軍をあずかる大将して、望美とともに戦場を駆け巡った。
それがあまりにも日常化しすぎていて、ここ数ヶ月のように平穏な日々が続いていると、かえって違和感を覚えてしまう。
平穏を望んでの戦をしていたはずなのに平穏になると困惑するなんて、本末転倒だと自分でも思うのだが。
「あ、おはようございます九郎さま」
「ああ、おはよう」
通りがかった小姓に挨拶を返すと、九郎に仕えて長いその小姓は九郎の思考を先回りするが如く口を開いた。
「望美さまは白雪のところにおいででしたよ」
「そうか」
小姓の言葉に、九郎は満足げに頷く。
まったく、主人をよく知った上で仕えてくれる良い小姓だ。
九郎が育て、いまや賢い友となった鷹の名に、九郎は厩の方へと歩き始める。
その九郎の背に、小姓は微笑みをこぼしながらも声をかけてやった。
「お戻りになるころには、朝餉の支度を整えておりますゆえ――」